第189話 四国から大阪へ 真美の家

 翌日、真美が朝の六時に出ると言う。園香そのかが驚いた表情で「早すぎる」と言うと「早起きは三文の徳」と言う。

 何だか昔話みたいなことを言うと思ったが、真美の車に乗せて行ってもらうので文句は言えない。


 朝、真美が園香の家まで迎えに来てくれた。早いといっても夏の朝六時はすっかり明るくなっていた。真美が運転して高速道路で行くということに少し不安はあったが、想像以上に真美が安全運転だったので安心した。

 園香たちは何度かパーキングエリアで休憩しながら大阪を目指した。四国から瀬戸大橋を渡り岡山へ、そして大阪まで行く。

 途中、瀬戸大橋から見える海の景色は特に美しかったが、心なしか周りの車のスピードが速い感じがした。開かれた空間の中を走って行く車は空を飛んでいるような感覚で、園香は少し怖いと思った。

 基本的に大阪に入るまで、ほとんど山に囲まれ自然に包まれた風景の中を走っている感じだと思った。

 高速道路をあまり走ったことがない園香は休憩のとき車の外に出ても、まったく、どの辺りか見当がつかなかったが、どこのパーキングエリアも車から出ると、朝の空気が清々しく心地よかった。

 パーキングエリアに着く度に「運転を交代しようか」と言ったが「大丈夫」と言われ、結局、最後まで真美の運転で行った。


 大阪はさすがに都会で、園香は思わず周りを見回してしまう。神戸と京都は何度か行ったことがあったが、大阪にはあまり来たことがなかった。


「大きい街だね」

 園香が言うと、真美が微笑む。

「そうやな、大阪は、なんだかんだ言うても、大きい街やと思うで」

 真美は車の免許を取って間もないはずだが、意外に大阪の道を知っていると思った。真美に、それを言うと、

「いや、全然わからんけど、とりあえず、自分の知ってるとこは知ってるって感じやな」

 と言う。


 真美が「大阪ではほとんど電車で行動する」と言う。理由を聞くと「道わからんし、駐車場代いるし」と言う。



 真美の家に着いた。真美も、また、以前話したとき泊るところはあると園香に言っていたが、その家の大きさに驚いた。白壁で囲まれた家の庭はかなり広く。駐車場には車が二台あった。そこへ真美が車を駐めて三台。まだ、数台駐車スペースがある。

 家は二階建てだが、二階に何部屋あるのだろうと思った。


「大きい家ね」

「大きいだけやけどな」

「……聞いてなかったけど、真美ちゃんのお父さんって、どこかの社長さんかなにか?」

「え、親は医者やってる」

「え! そうなの」

「兄ちゃんと姉ちゃんがいて、兄ちゃんが医学部行ってる。姉ちゃんは小さい頃からピアノやってて、大学もそっちの方を専攻してる。で、私はバレエ……バレエやめて、急に大学行くようにしたけど、やっぱり、また、バレエすることになったな」

「へえ、そうなんだ。頭いいんだね」

「上の二人?」

「いや、真美ちゃんもだよ。コンクールですごい結果出せるレベルまでバレエやってて、急に大学行こうって思って合格するんだから」

「まあ、両親とか兄や姉が、そんな感じだから、その辺の生徒より真面目に勉強してたと思うで」

「へえ」

 園香は感心した。



 それから数日間、真美が大阪を案内してくれた。今回は東京に行った時の様に、どこかでバレエのレッスンを受けることはない。


 そして、明日はバレエ協会が主催する公演の稽古場に行く。行く先は大阪に拠点を置く宮崎美香バレエスタジオの本部教室。真美が小さい頃からバレエを習っていた教室だ。

 ここで今回観に行く公演の稽古場での最終リハーサルが行われる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る