第188話 花火大会と夏祭り

 こうして普通に同じ大学の友人と一緒の時間を過ごすと、自分にとってのバレエの世界で起こっていることが、改めて非日常的なことの様に思える。


 今、自分が稽古場で一緒に過ごしている美織みおりたちは、今までのバレエ人生の中で、絶対に会うはずのない人たちだった。辿り着くはずのない人たちだった。その美織みおり瑞希みずきが友達の様に話し掛けてくる。すみれという、その世界の中で神のような存在の人が、自分の毎日の生活の中にいる。


 長年バレエをしていても、この人たちが、同じ稽古場という空間で練習をしている姿など絶対に見ることができないというほどの存在だった。

 テレビでクラシック音楽の演奏や、能や歌舞伎などの芸術を紹介する時間帯があった。そんな番組でバレエの作品が紹介されたとき、彼女たちはテレビの画面の中で踊っていた。

 彼女たちは、そんな別世界の人達だった。バレエの専門雑誌などを見ると世界的なバレリーナと共に表紙を飾っていた。園香たちにとっては人間国宝のような存在だ。


 実際、彼女たちが在籍していた名門バレエ団青山青葉あおやまあおばバレエ団において、その同じ建物でバレエ学校に通っている生徒たちでさえ、毎日、同じ建物の稽古場に通っていても、四人は、普段、絶対に会えない存在だと言われていた。


 今、こうして大学の友人たちと時間を過ごしていると、余計に美織たちといる時間が遠い世界の様に思われる。


「あ、園香ちゃん、真美ちゃん」

 瑞希みずき美織みおり、すみれ、優一がやって来た。

「あ、こんにちは」

 物思いにふけっていた園香は、瑞希の一言で、いきなり現実に戻された。それは、あり得ない現実。まるで、どこかの時点で迷い込んでしまった異世界のような現実。夢と現実が交錯するような世界だ。

 驚いた、この花火大会の会場で会うと思っていなかった。


 そんなことを思いながら瑞希たちの方を見ていると、瑞希が不思議そうな顔をする。

「ん、どうしたの?」

「いえ、いえいえ、瑞希さんたちも花火見に来るんですね」

 思わず戸惑ってしまう園香に、瑞希たちが微笑む。

「美織さんとすみれさんが花火見たいって言うから来たの。夜は日焼けしないからね」

「え?」

 そう言えば、美織たちは全員、爽やかな出で立ちで稽古場に来るが、真夏というのに、いつも長袖ながそでだ。そんな彼女たちの半袖はんそで姿は、どこか新鮮な感じがした。

「どうしたの?」

「え、いえ、皆さんの半袖の普段着姿を見るの、初めてのような気がして」

「ああ、私たち昼間、太陽の光に当たるとまずいから」

「ええ」

 微笑みが広がった。

 そんな会話をしながら、美織たち四人と大学の友人たちを見比べた。そうすると、改めて、すみれも美織も瑞希も、男性の優一さえも、普通に生活している一般の人に比べ、はっきり分かるほど色が白い。普段から日焼けしないように気を付けているのが分かる。


 皆で美しく迫力のある花火を見た。花火を見ている美織やすみれの姿は、どこか、子どものようだった。花火が打ちあがるたびに楽しそうに拍手をしながら見ていた。



 次の日は真美の希望もあって、市内の大きな演舞場えんぶじょうで踊りを見た。真美は十分に夏祭りを満喫したようだ。

 後で聞いた話では美織やすみれ、瑞希たちも同じ演舞場に来て見ていたそうだ。そして、美織たちは、偶然、ゆいの一家に会ったそうだ。



 翌日、園香と真美は、真美の車で大阪に向かう。

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