一九九三年 八月

第13章 夏祭りから大阪へ

第186話 試験の間のひとやすみ

 暑い日が続く八月。大学の試験が始まった。

 その日、園香そのかは午前中で試験が終わり喫茶エトワールに行った。


「いらっしゃい。あら、園香ちゃん。真美ちゃんも来てるわよ」

 千春が笑顔でやってきた。

「え、真美ちゃん、来てるの」

 園香が席に案内された。


 真美は一人でミックスジュースを飲んでいた。

「真美ちゃん。どうだった、今日の試験」

「まあまあやな。園ちゃんはできた?」

「まあまあね」


「大変ね、ご注文は?」

 千春がやって来た。

「メロンクリームソーダお願いします。あ、真美ちゃん、それミックスサンド?」

「そうや、ミックスジュースとミックスサンド。ミックスのミックスや」

「千春さん、私もミックスサンドください」

「はいはい、今度、大阪に行くんですって?」

「そうなんです。この週末には試験が終わるんで、来週から行くんです」

「いいわね。なんか、皆で行くことになったんだってね」

「そうなんです」

 真美がサンドイッチを食べながら言う。今日はゆいのお母さんと大阪でのことを少し打ち合わせるということだった。


 園香と真美が少し話をしていると、ゆいのお母さんとゆいがやって来た。唯は可愛らしい白のストローハットに白のワンピースという姿でやって来た。

「まあ、かわいい」

「唯ちゃん、美織みおり先生みたいや」

 園香と真美が声を合わせるように言うと、唯が嬉しそうに微笑む。


 もともと親戚の家に遊びに行く予定だった唯たちは、園香や真美より少し早く大阪に行く。

 最初は公演の当日と前日だけの予定だったが、真美が二日前の稽古場のリハーサルから行くことになったというと、唯と唯のお母さんも付いて行きたいと言い出し、結局、三日間、一緒に行動することになった。

 真美は唯のお母さんに大阪の自分の家の住所と連絡先を伝えた。唯のお母さんも園香と真美に連絡の取れる電話番号を伝えた。

 そして、唯のお母さんに二日前のリハーサルの場所を教えたが、少しわかりにくいところなので、最寄りの駅から一緒に行くことにした。

 公演が行われるホールの場所はさすがにわかるが、このホールへも最寄りの駅から一緒に行くことにした。公演のチケットは当日ホールの受付に置いてくれているということを伝える。これは園香や真美たちも同じだそうだ。


「あら、いらっしゃい。こんにちは」

 千春の声に、唯が入り口の方に目を向けると、美織みおりとすみれ、瑞希みずきと優一がやって来た。

「あ、美織先生、すみれ先生」

 唯が目をきらきらさせ、四人の方に手をあげる。

 四人はいつものような恰好をしている美織は白のストローハットに白のワンピース姿だ。

「あら、こんにちは、驚いた。唯ちゃんと唯ちゃんのお母さんも」

 この店は花村バレエの関係者はよく訪れるが、美織たち四人も園香たちが唯たちと一緒にいるのを見て驚いた。

「今度の大阪の話をしていたんです」

 園香がそう言うと、美織が唯の方に微笑み、

「唯ちゃんも大阪に行くんだよね」

「うん」

 唯は自分の横に置いてあった、白のかわいいストローハットをかぶって見せる。

「あ、美織先生と一緒だ」

 瑞希が唯に微笑みかける。唯が大きく頷いてにこにこする。


 千春が美織たちのところに注文を取りに来た。

「あなたたちは?」

「ミックスジュース四つとミックスサンド四つお願いします」

 園香が少し驚いた。

「え、みんな、ミックスジュースとミックスサンドなんですか?」

「そうだよ」

「ミックスのミックスですか?」

「え?」

「いえいえ」

 オレンジジュースを飲んでいた唯がお母さんに小さな声で、

「唯も今度からミックスジュースがいい」

 と言うのを聞いて笑顔が広がった。


「二人は試験中?」

 美織が園香たちに微笑みながら園香たちに聞く。

「そうなんです。あと少しで終わりです」

「そう、頑張ってね」


 街は、もうすぐ始まる夏祭りの準備と行き交う観光客で賑やかになってきた。八月のまぶしい日差しと蝉の鳴き声が夏を彩っている。

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