第184話 七月の終わりに

 七月はキッズクラスとオープンクラスのみで空いた時間に『くるみ割り人形』の振りの練習を美織みおりとすみれ、瑞希みずき、優一が見る。

 佐和、理央りお、真由の姉妹は皆より遅れて公演練習に加わった形になったが、三人とも基礎がしっかりできていたことと、振りを覚えるのが速かったため、あっという間に皆に追いついた。振りが速く入ったのは美織とすみれの指導が優れていることもある。

 第二幕の『あし笛の踊り』を踊る佐和も、一緒に踊る玲子れいこと同じレベルで踊れるようになった。この『あし笛の踊り』は男性一人、女性二人で踊る。男性パートは優一が代役で踊って練習する。あとは本番で踊る月原静つきはらしずかと合わせるだけだ。

 理央りおは今回、客人、兵隊人形、雪、花のワルツと大勢で合わせる踊りが多い。この期間、全員がそろうことはなかったが、振りと舞台での動きは全部覚えた。


 この三人について、最初は美織や瑞希、真美も、彼女たちがピアノや他の習い事もしているということで、もしかしたら、バレエは趣味の習い事として片手間でやっているのではないか、あまり真剣にやってないのではないかという思いもあったが、思いのほか三人のレベルが高いことに少し驚いた。

 そんな中で、美織は、佐和が県外のバレエの先生にも習っていると言っていたことを思い出した。


 レッスンの終わりに、園香と真美は、いつも美織たちと話をする。ふと、美織が園香に聞いてきた。


「ねえ、園香ちゃん。前に、佐和ちゃんって、どこか、県外のバレエ教室にも習いに行ってるって聞いたけど、どこに行ってるの?」

「私も、はっきりとは知らないんですが、確か、宝生ほうしょう先生っていう方のところに習いに行ってるって言ってたと思います」

「え! 京都の宝生ほうしょう先生」

 その名前に真美が反応した。

「有名な先生なの?」

「有名、有名。そうや、バレエフェスティバルの時、関西の二人組来てたやろう。あの、おとなしかった方の子、橘麗たちばなうららちゃん。うららちゃんが宝生先生の生徒や。宝生先生とこは、とにかく、めちゃくちゃテクニックのあるダンサー多いからなあ。有名なんでえ、宝生先生に習ったらテクニックが付くって、だから、結構他の教室からも習いにんねん。関西はもちろん、遠方からも来てるよ」

「そうなの」

「まあ、そういう噂を聞いて、いろんなとこから、レベルの高い子が集まってくるから自然に高め合う場所になってるんちゃう」

うららちゃんって子もすごいの?」

「今度『ライモンダ』の主役する言うてたやん。うららちゃんは生粋きっすい宝生ほうしょうの生徒や。あの子、おとなしいけど、めっちゃテクニックすごいで。一緒におったはなより全然すごいわ。多分、宝生ほうしょうでナンバーワンちゃう。そうそう『ライモンダ』のコーダ、勢いある曲やん。凄いテクニック見せると思うで」

「そうなんだ。そんなに凄いの」

「あ、いや、美織みおりさんは、もっと凄いで」


「別にいいよ、そのフォロー」

 美織が微笑む。

「京都の橘麗たちばなうららちゃんなら、私たちも知ってるよ。コンクールで見たこともあったし、バレエフェスティバルの時、美織さんのところに挨拶に来てたよ。礼儀正しい子じゃない」

 瑞希が隣から言う。

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