第182話 そして、すみれのレッスン オープンクラス(二)

 バーレッスン


 プリエを一番ポジションから五番ポジションまで、しっかり両足に均等に重心が乗っていることを意識しながら行っていく。

 すみれが顔の向き腕のポジションも細かく教えて回る。美織みおり瑞希みずきも生徒たちを見て回る。優一は男子生徒たちを見る。

 タンデュ、ジュテと基本動作を難しくない動きの中で重心や体重移動をきちんと意識しながら行っていく。アンディオール(外に旋回せんかいするように開くこと)を常に意識し、タンデュなど足を前後左右に出す動きやジュテなど足を床から浮かせる動きでは、つま先を遠くに伸ばすように、そして、足裏で床を意識して行う。

 腕の位置、顔の向き、細かく繊細に意識づけていく。そして、一つ一つの動きで音楽も大切にする。

 グラン・バトマンまでバーレッスンのエクササイズが一通りすべて終わったところでセンターレッスンの前に休憩を入れる。

 センターバーを片付ける。



 休憩時間


 生徒たちが休憩している間、もう一度、すみれがバーレッスンの曲を流し、壁のバーでプリエを始める。見学席にいたゆいが走っていき、すみれの後ろで真似まねするように同じことをする。すみれも唯に微笑み、

「唯ちゃんもする?」

 と聞くと、唯が頷いて微笑む。真由も一緒に始める。

 その光景を見学席のお母さんたちばかりでなく、バレエ教師やレッスンを受けている生徒たちも微笑んで見ていたが、すみれの美しいバーのエクササイズに、いつしか我を忘れて見入っていた。

 プリエからタンデュ、ジュテ……先程のバーレッスンのメニューを大まかに流す。正確なポジション、美しく流れる様に曲を表現する。すみれの動きそのものが一つの芸術作品の様に思えた。

 グラン・バトマンまで終わると、どこからともなく拍手が起こり、気が付くと稽古場が拍手に包まれていた。

 すみれが唯と真由の頭を撫で、

「上手にできたね」

 と微笑むと唯と真由は喜んで見学席に戻った。


 センターレッスン


 センターでは、すみれが曲で動きを見せ、美織と瑞希が先頭で行う。レッスン生たちは、その後、順番に踊っていく。園香そのか、真美、由奈ゆな、佐和、玲子が最初に踊り、年齢順に高校生、中学生から小学生高学年へ、その後、大人クラス、続いて詩保しほ葉子ようこ。そして男子たち。花村バレエの生徒も他の教室の生徒も関係なく、大体その順番で行っていく。アダージオ(ゆっくりした動き)からアレグロ(速い動き)、小さなジャンプ、細かいジャンプから、大きな跳躍へ、一人一人丁寧に見て優しくアドバイスしていく。

 できていなくても無理はさせず優しく教える。その生徒ができる範囲で技術が向上できるようにアドバイスする。

 男子には優一が教えるのであるが、気が付いたことは、すみれが直接、男子にコツやポイントを教え、男性特有のバレエのテクニックを、すみれがやって見せる。これには園香ばかりでなく見学席で見ていたバレエ教師、詩保や葉子からも拍手と感嘆の声が漏れた。踊っている男子生徒たちも目を丸くして見るばかりだった。

 最後は稽古場を大きく使って、円を描く様にターンやジャンプをしながら回るマネージュ。

 これも最初に、すみれがやって見せると、全員から拍手が起こった。一つ一つの跳躍、ターンがはっきり、美しく見える。躍動感があるが一つ一つの動きが流れず、鮮明な印象として見ている者の心に残っていく。

 美織と瑞希が続く。この二人もすみれに劣らず同じような美しさと感動を与える。園香ばかりでなく見ている者の誰もが感じた。この二人に対して、すみれが厳しく指導し細部まで妥協することのない練習を積み重ねた賜物たまものだと思えた。


 すみれのレッスンがすべて終わり全員でルベランス(お辞儀)をして終わる。

 すみれの周りに生徒たちが集まって、いろいろなことを質問したり教えてもらう。すみれは一人一人に優しく丁寧にアドバイスしていく。美織や瑞希のところにもたくさんの生徒が集まりいろいろな質問をしていた。

 男性の少ないこの世界、ゲストダンサーが来た時ぐらいしか、男性のバレエ教師から学ぶことができない。他の教室の男子生徒も優一の周りに集まりいろいろなことを学ぼうとしていた。

 バレエ教師の詩保や葉子も、すみれにバレエのテクニックについていろいろ習っていた。

 オープンクラスのレッスンが終わってからも、しばらく生徒もバレエ教師も、見学のお母さんたちも帰ろうとしなかった。

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