第180話 オープンクラスの前の出来事

 美織みおりが小さなタッパーのようなものにリンゴなどの果物を入れて持って来ているようだ。すみれと美織、優一と瑞希みずきの四人で話をしながら食べている。

 見学席には市内のバレエ教室の先生たちも全員揃っていた。キッズクラスの生徒やお母さんもたくさんいる。

 稽古場のフロアには、花村バレエの生徒ばかりでなく、他の教室の生徒たちもたくさんいる。気が付くと百人ぐらいになっている。各自、気の合う者同士でストレッチをしている。

 秋山と山野バレエの詩保しほ、橋野バレエの葉子ようこが気を利かせてレオタードに付ける布を用意してくれた。生徒たちに配り自分で名前を書いて付ける様に指示する。生徒たちはそれぞれ布に名前を書いた。

 スタッフと見学に来ていた小学生や中学生のお母さん、キッズクラスのお母さんたちも手伝い、あっという間に全員のレオタードに名前の布を縫い付けた。



 園香そのかたちは北村と秋山に言われてセンターバーを用意した。準備したバーを確認し、何とか全員バーにつかまれることを確認する。いつの間にか奈々や千春も来ていた。由奈ゆなもやって来た。花村バレエの男子生徒も全員参加、他のバレエ教室の男子も来たので男子も十人以上いる。


 すみれが前以って、何かを確認するように美織と優一、瑞希と話をしていた。組み立てたセンターバーを、一旦、稽古場の端に置く。ストレッチから始めるようだ。

 ゆいや真由もレッスンを見るのが楽しみという風に目をきらきらさせて笑顔で話をしている。

 すみれは黒のレオタードに黒の短い巻きスカートを巻いている。教室を一通り周り生徒たちに笑顔で挨拶し、何か一言二言声を掛けていく。ほとんどの生徒が、すみれたち四人を知っている。バレエフェスティバルを観に行った生徒も多い。

 すみれは大人クラスの千春たちとも楽しそうに話している。大人クラスの男性も来ていた。その男性にも声を掛けてストレッチのアドバイスをしていた。何かバーにつかまって足を軽く振ったり、腕を軽く回したりして見せていた。

 集まっている男子生徒のところでも同じようなことをしていた。気が付くと痛そうな表情で、固まったように前屈ぜんくつしようとしたり、無理なストレッチをしようとしていた生徒たちが立ち上がって、軽く腕や足を動かすように体を動かし始めた。皆、ウォーミングアップをするように様にリラックスして体を動かす。


 クララ役の由奈ゆな、あし笛を踊る佐和と玲子が話をしている。園香や奈々、真美も三人と一緒にストレッチをしていた。

 そこへ、すみれがやって来た。先程の瑞希のレッスンを見た由奈や佐和、玲子は緊張している。


「こんにちは、花村バレエの生徒さん?」

 すみれの問いかけに、園香が紹介する。

「こちらがクララ役の由奈ちゃんです。この二人が『あし笛』を踊る佐和ちゃんと玲子ちゃんです。佐和ちゃんはキャンディを踊る真由ちゃんのお姉さんです。玲子ちゃんはコロンビーヌも踊ります」

「そうなの。頑張ろうね。よろしくね。真由ちゃんキャンディ頑張ってるね」

 すみれが佐和のストレッチをしている様子を見て、足のひざの向きを直しながら、

「ここ、足の付け根から……そのために、ここ、骨盤の少し上の部分を引き上げる様に」

 佐和が頷く。玲子にも同じように引き上げるところを教える。

「少し足が自由になる感じわかる? そうやってストレッチすると、もっと、足が開く様になるから」

 二人が頷く。

「こういう、ストレッチをしているときでも肩は下げて」

 佐和と玲子が顔を見合わせて微笑む。その後、由奈にも同じように体の使い方を教える。

 他のバレエ教室の生徒たちにも優しくアドバイスしていく。

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