第178話 これは瑞希の時間 コンクール練習

 午後一時から三時までオープンクラス。すみれがレッスンをすることになっている。

 キッズクラスが終わったあと、美織みおりが北村に頼んで瑞希みずきのレッスンをさせてもらうことになっていた。すぐ、瑞希のコンクールレッスンが始まる。優一も準備できている。

 バレエ『ドン・キホーテ』のグラン・パ・ド・ドゥ。東京へ行く前と変わらず安定した踊りだ。アダージオも息が合っている。瑞恵のソロはヴァリエーションも高い表現力とテクニックで問題がないように見えた。コーダまで全部通して美織が注意点を言っていく。

 一旦、昼食を取って午後のオープンレッスンから見学させてもらおうと思っていたキッズクラスの生徒、お母さんたちの足が止まる。それに気が付いた美織が、

「これは瑞希の練習ですから、気になさらず……午後からまた見学される方は、お昼に行って来てください。お子様もお昼食べないと……」

 と言うが、お母さんたちは見たいという気持ちで、その場を離れようとしない。

 子ども達も急に始まったコンクールの稽古に稽古場から離れようとしない。

 すみれも皆の方に微笑み、

「お昼行って、帰ってきても、まだ、やってるから」

 と言う。

 ゆいが手をあげて、、

「はーい。早く食べて戻ってくるの」

 と言うと、キッズクラスの子どもとお母さんたちが一斉に昼食に行った。すみれが微笑みながら呟くように言う、

「唯ちゃん、察しがいいというか、すごい子ね」

 教室には園香そのかと真美、北村、秋山と詩保しほ葉子ようこだけになった。すみれが園香たちにも、

「みんなも昼食行ってきて、別にお手伝いなくても大丈夫だから」

 迷う園香に、美織が、

「園香ちゃん、真美ちゃん、先生方、こういうとき、誰かが残るって言ったら、他の人が行きにくくなるから、皆さんで行ってきて」

 という、見たいという思いもあったが、そうまで言われると、行かないのが申し訳ない気もして、園香たちは近くのコンビニで食べ物と飲み物を買ってくることにした。

「すみれさんたちは? 何か買ってきましょうか」

「優しいのね。大丈夫、私たちは少し食べるもの持って来てるから」

 そう言われて、園香たちはコンビニに向かった。


 美織がアドバイスをしていく細かい音の取り方、表現を直していく。もう一度、瑞希が振りをさらい曲で踊る。

 すみれは鏡の前の床に座って見ている。すみれは振りのなかでの一瞬の顔の向き、目線など、本当に細部の注意点を指摘していく。

 真剣な表情で瑞希が頷き振りをさらう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る