第177話 そして、すみれのレッスン キッズクラス

 今日は午前中キッズクラスのレッスンがある。そして、お昼を挟んで昼から、小学生高学年から大人クラスまで誰でも受けれるオープンクラスのレッスンがある。

 今日のオープンクラスのレッスンは他のバレエ教室の生徒も受けさせて欲しいという申し出があった。話しの中で詩保しほ葉子ようこも受けさせて欲しいと言い出した。すみれは別に構わないと承諾した。それに便乗して花村バレエのスタッフである北村や秋山も受けさせてもらうことになった。


 今日のキッズクラスは全員出席、体験レッスンの子も数人いる。

 すみれはレッスン前にキッズクラスの子どもたちと何か話をしていた。子どもたちは楽しそうに、すみれに話し掛ける。時々聞こえてくる笑い声。初めてレッスンを受けに来た体験レッスンの子も楽しそうにすみれと話をしている

「お名前は?」「あい」「藍ちゃんは今日初めてなのね」「うん」「ピンクのお稽古着がかわいいね」「うん」

 嬉しそうに微笑む。

「かわいいお稽古着ね、お名前は?」「美和みわ」「美和ちゃんも今日初めてのレッスンなんだね。美和ちゃんはいくつなの? 小学生?」「そう、一年生」

 一人一人と何でもないようなことを話している。ゆいや真由など一部の生徒以外、誰もすみれがどんな人かも知らずに楽しそうに話している。

 笑顔に包まれるキッズクラスの子どもたち。レッスンは美織みおり瑞希みずきがフォローし、優一が音出しをする。園香そのかや真美、北村、秋山たち花村バレエのスタッフもサポートする。


 すみれのレッスンが始まった


 レッスンが始まって、園香や真美たちが驚いたのは、すみれは生徒一人一人を名前で呼びながら、優しく丁寧に教えていく。生徒は美織が来たばかりの頃より少し増え二十人以上いる。その生徒たち全員の顔と名前を、先程レッスン前に話をする中で聞き取り覚えたのだ。そして、更に驚いたことに、すみれたちが話している隣で一緒に楽しそうにしていた美織も子どもたちの名前を全員覚えている。

 以前、青山青葉あおやまあおばバレエでバレエ教師の佐由美さゆみが「美織は小さい子に人気」と言っていたが、こういうことが子どもたちから愛される理由なのだろうと思えた。


 すみれは寝転がって腕を広げたり、仰向けに寝た状態で足を天上の方に上げたり、そのまま上げた足を頭の上の床に付けさせたり。

 うつ伏せに寝て両腕を立て体を反らせる。腰の辺りだけで折れる様に起き上がるのではなく、腰から背中全体をしならせる様にらせる。そのまま両足のひざを曲げ足先を頭に付けさせる。

 子どもたちは遊んでいるような感覚で楽しそうに真似まねしている。

 次は床に座って体を動かす。

 両足を前に伸ばして、体を前に倒したり、上半身をひねるようにしてみたり、前に伸ばした両足を床から少し上げてみたり。開脚して体を前後に倒したり横に倒したり、また、体をひねるようにしてみる。そのまま上体の向きを変えて足を前後に開いた形にする。また、上体を前後に倒す。


 要所、要所で、すみれが一人一人に声を掛けながら、できない子に対しても、やさしく微笑みながら声を掛けサポートする。声を掛けられた子は嬉しそうに微笑む。

 スキップやギャロップは初めての子とは一緒に手をつないでやって見せる。

 すべての動きの中で、ストレッチやバレエの基本の動作を知らず知らずのうちに身に付けていけるようなレッスンメニューになっているようだ。足のポジションや腕のポジションは、常に、自然に身に付くようにその形を作っていく。一緒にレッスンをサポートしていた園香と真美、北村や秋山もそれを実感できた。


 周りで見ていた詩保や葉子も、最初は有名なバレリーナすみれとして羨望の眼差しを向けていたが、レッスンを見るうちに、バレエ教師として勉強させられることがあまりに多く、いつしか、自分がレッスンを受けているような真剣な目でレッスンを見ていた。


 レッスンは、あっという間に終わった。キッズクラスの子どもたちは嬉しそうな笑顔で終わりの挨拶をして練習を終えた。

 体験レッスンの子たちは、みんな入会することになった。終わってからも、すみれと美織の周りに子どもたちが集まりしきりに何か話しかけていた。


 昼を挟んで午後からオープンクラスだ。キッズクラスの生徒もほとんどの親子が見学に来るという。

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