第169話 すみれの振りうつし キャンディ(一)
「真由ちゃん、この踊りはね。バレエ『くるみ割り人形』のなかで一番可愛らしい踊りなの。だからキッズクラスの皆で踊るのが一番いいの。お菓子の国にやってきたクララをいろいろな国のお菓子や飲み物の妖精たちが歓迎するの。そしてこれはキャンディね。かわいいでしょ」
泣きそうになっていた真由が、やさしいすみれの言葉に微笑んで頷く。隣で聞いていた
「もう一度、先生と一緒に踊りをさらってみようか」
そう言って、すみれは丁寧に振りを教えていく。真由の前で踊りを踊ってみせる。すみれが何小節か踊って、二人で一緒に踊り、また、すみれが何小節か踊って、二人で一緒に踊る。曲を口ずさみながら丁寧に踊る。
「大丈夫かな?」
やさしく聞くすみれ。
すみれの言葉に真由が頷く。
「
美織が、デッキについていた北村のところに行き優しく言う。
「大丈夫です。私がやります。北村先生、見てあげてください」
「はい」
美織が曲を準備する。
「真由ちゃん。ちょっと、もう一度、曲を聴いてみようか」
すみれがキッズクラスの他の生徒に、
「ちょっと、真由ちゃんだけで踊るから、みんなは待っててね」
と言い、美織に曲を指示する。すみれが真由と一緒に曲を数えながら聞く。最初の導入の部分を二小節聞いた後、この導入の部分を合わせて十一小節目に舞台に入って来る。
「一、二、三、四……九、十、ここ」
「十一のところ」
「そう。美織もう一回曲お願い」
今度は真由が一人で数える。そして、十一小節目で舞台に入って来て踊り始める。
「そう。できた。続けて」
自信のなさそうなところは、すぐに、すみれが手振りで教える。踊り終わり。すみれが微笑んで拍手する。前で見ていた唯も拍手する。
「はい、よくできた。できてるから、自信を持って踊ってね。ちょっと、お姉さんが踊るから前で見ててくれるかな」
「はい」
真由が少し驚いた表情で頷く。キッズクラスの生徒も他の生徒も、見学のお母さんたちも皆が驚いた。
真由も他のキッズクラスの生徒と一緒に鏡の前に座る。唯も真由の隣に座る。
「美織、ジゴーニュおばさんお願い」
「はい」
美織も準備する。
すみれが『くるみ割り人形』のキャンディボンボンを踊る。スキップの
すべてにおいて非の打ち所がない。キッズクラスの生徒も、すみれの踊りが、いかに凄いかを肌で感じたようだ。
踊り終わって、すみれがキッズクラスの生徒たちに微笑む。生徒たちの心に強烈な印象が刻まれた。稽古場の全員から拍手が鳴りやまない。
真由は自分の踊りをすみれが踊ってくれたことが嬉しかった。
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