第166話 土曜日の教室 キッズクラスで(二)

 キッズクラスのレッスンが始まる。鏡の前で北村が指導する。園香そのかと真美は生徒たちを順番に見て回る。真美は生徒たちを見回して、本当にキッズクラスの中でゆいが一番小さいのだと思いながら唯に微笑みかける。唯も練習をしながら微笑み返す。

 それにしても、音の取り方や踊り方、小さいながら、バレエのポジションを意識した踊り、すみれの目に留まった子だけのことはあるなと改めて思った。

 キッズクラスの他の子たちは唯より大きいが、明らかに唯のセンスが秀でている。そして、真由もこの子たちの中ではかなり上手だと思った。

 途中、休憩の時間に北村が真由に話し掛ける。

「真由ちゃん、このお稽古が終わったらキャンディの振り練習するわよ」

 園香が北村のところに行く。

「真由ちゃん、どっちのグループなんですか?」

「昨日、電話で、あやめさんに聞いたの。二組目の後ろだって。だから立ち位置は唯ちゃんの反対ね」

「そうなんですね。じゃあ、振りは唯ちゃんと同じですね」

 真美が何なんだろうという表情で二人を見る。園香が、真由やお姉さんの佐和、理央が最近までピアノが忙しくてレッスンに来てなかったことを話す。

 真美は少し驚いた顔をして「真由ちゃんたち姉妹。ピアノも本格的にやってるんや」と呟く。


◇◇◇◇◇◇


 キッズクラスのレッスンが終わりに近づく頃、次のレッスンの小学校高学年の生徒から中学生、高校生、大人クラスの生徒が集まって来始めた。集まって来た生徒たちは稽古場の隅でストレッチなどを始める。千春も来ていた。樹や光、信也たち男子もやって来た。クララ役の由奈がやってくる。奈々もやって来た。

「あ、鹿島さん。ここに来るようになったんだね」

「あ、牧村さん」真美が微笑む。北村が不思議そうな顔をして二人に聞く。

「あら、二人は知り合い」

 奈々が笑いながら、

「大学の学部が一緒なんです。園香から聞いたけど。鹿島さん、バレエすごく上手なんだってね」

「いや、普通、普通。あと、真美でいいから」

「あ、じゃあ、真美ちゃんって呼ばせてもらうね。全国コンクール出たことあるって聞いたけど」

「いや、誰でも出れるから」

「奈々、真美ちゃん、全国二位なんだよ」

「ええ! 誰でも出れるとかってレベルじゃないじゃない。すごいね。ところで、園香、久し振り、ずっと東京に行ってたんだって?」

「うん」

瑞希みずきさんちと言いながら、ずっと恵人けいとさんの家にに泊まってたの? やるう」

「な、なによ」

「ええ、真美ちゃんも一緒だし、瑞希さんも」

「まあまあ」

「なにが、まあまあよ」

 園香が少し赤くなる。

「え、園ちゃん、本当に、そうなん?」真美が目を丸くして聞く。

「え?」

「恵人君」

「いやいや」

「そうなの。そうなの」奈々が横から微笑む。

「ええ、そうだったの。やるう。でも、それやったら河合バレエに雇ってもらったらいいやん」

「真美ちゃんまで……」

「え、どういうこと」

 奈々が興味深そうに聞く。瑞希の家が都内のバレエスタジオだったことを話すと奈々も驚いた。

 そして「それはいいはね」などと微笑んだ。


 そんなことを話していると教室に上がって来る階段の方がざわついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る