第12章 七月の終わりに

第164話 七月の終わりに

 東京から帰ってきた園香そのか。何か、あの東京での二週間が夢の出来事だったかのような錯覚に陥る。何かボーっとする時間が多い。そんな時は、喫茶店「エトワール」に行く。


 その日は真美と待ち合わせしていた。今日は真美と一緒に花村バレエのレッスンに行く約束をしていた。

 千春さんがメロンクリームソーダを持って来てくれる。鮮やかな緑色に白いバニラアイス、真っ赤なチェリーが美しい。夏の飲み物だ。

「美味しそう」

「美味しいに決まってるじゃない。大学の試験はもう始まってるの?」

 千春さんに聞かれて、

「まだなんです。八月に入ってから」

「ふーん、大変ね、学生さんは。まだ、バレエフェスティバルの夢が覚めてないんじゃない?」

「本当にそうですよ。なんか、その前の青山青葉あおやまあおばバレエ団の公演とか、お稽古に参加させて頂いてたから、なんか夢の世界から現実の世界に戻ってきたみたい」

「本当ね」

 千春が微笑む。


 そんな話をしていたら真美がやって来た。

「あら、いらっしゃい。真美ちゃん、今日はレッスン行くの?」

 千春が真美にメニューを渡しながら聞く。

「はい、行ってみようと思ってます。なんか、いろいろあったけど、私まだ花村バレエにレッスンで行くの初めてなんです」

「そうなんだよね。真美ちゃんは、もうすっかり、花村バレエの人みたいな感じだけど、きちんと教室のレッスンに来るのは初めてなんだよね」


「あ、すみません、え、と」

「千春って呼んでもらっていいのよ。皆そう呼んでるから」

「あ、じゃあ、千春さん、ミックスジュース、お願いします」

 千春が微笑んで頷く。

「ねえ、そのちゃん、美織みおりさんたち、もう来てるの?」

「それが、まだ、来てないの。いつから来るのか、北村先生たちも聞いてないみたいで」

「そうなんや、美織さんが帰ってきたら、一番喜ぶんはゆいちゃんやな」

「そうだね。私、時々、キッズクラスを手伝わせてもらってるんだけど、この前も唯ちゃんから聞かれたよ。美織先生は? って」

「かわいいな」


 喫茶店から見える通りには観光客らしい人達が行き交う。もうすぐ大きな夏祭りもあり賑やかになる。


 ジュースを飲んで、二人で稽古場に向かった。

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