第163話 バレエフェスティバルを終えて

 バレエフェスティバルが終わった。結局その日も美織みおりやすみれたちが出てくるのを待って挨拶をした。園香そのかと真美ばかりでなく、ゆいと唯のお母さんも一緒に挨拶をした。

 園香や真美にとっても、この二週間は心に残るかけがえのない二週間だったが、小さな唯にとってはもっと大きな思い出になったのではないだろうか。お母さんは「ずっと覚えてくれているといいのですが」と言っていたが、きっと覚えているだろうと思えた。


 すみれが唯の目線に合わせるようにしゃがんで話しかける。

「唯ちゃん、楽しかった?」

「楽しかった」

 手をあげて微笑む唯。


「この舞台も、白鳥の湖も、青山青葉あおやまあおばバレエのお稽古も?」


 大きく頷いて、

「うん、楽しかった! 全部楽しかった!」

 もう一度大きく手をあげて微笑む。


 すみれが唯の頭を撫でながら、

「よかった。じゃあ、次は『くるみ割り人形』頑張ろうね」

「はーい」

 唯がすみれに抱きつく。すみれが優しく唯を抱き上げて微笑む。


 周りにいた皆に微笑みが広がった。


 その後、少し皆で話をして劇場を後にした。


 唯は、この二週間のことを、きっと忘れないだろうと誰もが思えた。


◇◇◇◇◇◇


 翌日も瑞希みずきは朝早く出て行く。その日はバレエフェスティバルの最終日だ。園香と真美は瑞希にお礼を言った。

 瑞希は二人に微笑みながら、

「また、すぐ会えるじゃない。二人が泊まりに来てくれて楽しかったよ」

 と言ってくれた。そして、

「東京に来るときは、いつでも泊まりにきてね」

 と、振り返りながら言って、劇場に出かけて行った。瑞希の後ろ姿を見ながら、園香と真美は泣いてしまった。


 その後、園香は真美と二人で荷物をまとめ、瑞希と恵人けいとのお父さんとお母さんに挨拶をした。二人とも微笑みながら、

「また、いつでも来てくださいね」

 と言ってくれた。空港まで恵人が見送ってくれた。


 園香と真美は

「帰ったら大学の授業と試験が忙しくなる。それが一段落ついたら、また、練習に専念できる」

 などと話をすると、恵人も

「まあ、僕も一応学生だから試験があるんだ。寿恵としえのぞみしずかもね。でも、また、すぐに皆で行くよ」

 と微笑んだ。

 ずっと、自分たちとはまったく違うプロの人達とばかり思っていた。そんな彼らの別の一面を知ることができて少し嬉しかった。


 空港に付くと唯と唯のお母さんに会った。唯は園香たちを見つけて嬉しそうに走ってきた。唯のお母さんもやって来て少し話をする。

 その後、四人は恵人にお礼を言って搭乗ゲートを入って行く。唯は元気に手を振りながら微笑む。恵人も微笑んで見送ってくれた。


◇◇◇◇◇◇


 帰りの飛行機の中、最初は嬉しそうに話をしていた唯も気が付くといつの間にか眠っていた。

 園香も真美も唯の寝顔を見て幸せな気持ちになった。


◇◇◇◇◇◇


 バレエフェスティバル、青山青葉バレエ団公演、青山青葉バレエ団バレエ学校での二週間が終わった。

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