第162話 バレエフェスティバルBプログラム 第一部・第二部

 今日はBプログラムだ。バレエフェスティバルでAプログラムと同じ演目のダンサーと別の踊りを踊るダンサーがいる。美織みおりと優一はすべて違う演目で出演する。すみれやルエルは一部同じ演目、一部は別の演目。古都ことは第一部も第二部もすべて同じ演目で出演する。


バレエフェスティバルBプログラム第一部


1『眠れる森の美女』

 久宝くぼうすみれ マニュエル・ラクロワ

 Bプログラムのオープニングを飾るのは、すみれとラクロワだ。華やか、豪華絢爛な宮廷を思わせる幕開け。優雅な曲の中で完璧な表現。究極のノーブルという感じだ。

 眠れる森の美女のデジレ王子のヴァリエーションは王子の踊りの中でも気品と高度なテクニックを見せる難度の高い踊りだ。ラクロワは美しく繊細な表現で王子を踊る。

 オーロラ姫のヴァリエーションは美しく優しく煌びやかな、まさにおとぎの世界のお姫様を体現するようなヴァリエーションだ。すみれは見事に演じ踊る。

 コーダの後、満場の拍手に包まれる。


2『火の鳥』

 アニエス・ルエル ローラン・ディディエ

3『瀕死の白鳥』

 エレナ・コルポワ

 この二演目はAプログラムと同じく観客を感動の渦に巻き込んだ。


4『エスメラルダ』

 京野美織きょうのみおり 久宝くぼう優一

 美織の踊りは観る者の心を吸い込むような強烈な印象を与える。その類まれな表現力は、この劇場にいるすべての観客を魅了する。

 美織が踊るエスメラルダのヴァリエーションは高度なテクニックと圧倒的な表現力で舞台では際立った輝きを見せる。

 ゆいが花村バレエの稽古場でも見たタンバリンの踊りに嬉しそうに拍手を送っている。


5『ラ・シルフィード』

 ハンナ・クラフト エルネスト・ルデンバーグ

 ルデンバーグのジェームズのヴァリエーションが印象に残る。男性がスコットランドの伝統衣装キルトで踊るのが、この作品の特徴の一つといえる。男性のヴァリエーションは細かく足を使う踊りから大きな跳躍まで難しいヴァリエーションだ。

 ハンナ・クラフトの魅力的で美しい妖精シルフィードの表現も素晴らしい。


6『シルヴィア』

 アンナ・マリコーワ アンドレイ・サルコフ

7『ロミオとジュリエット』

 九条古都くじょうこと デイビッド・ロレンス

 Aプログラムに続き、このBプログラムで初めて見る観客もその秀逸な演目に大きな拍手を送った。

 古都とロレンスの『ロミオとジュリエット』でBプログラムの第一部が終わる。


 休憩時間をはさんで第二部が始まる。


バレエフェスティバルBプログラム第二部


8『ラ・フィユ・マル・ガルデ』

 マリア・テレホワ ウラジミール・ワレリエフ

9『白鳥の湖』

 九条古都 デイビッド・ロレンス

 

10『タリスマン』

エレナ・コルポワ イーゴリー・ミルコスキー

 この演目はBプログラムのみの演目となる。女性も男性も高度な技術を要する作品で観客は二人の美しい表現に心を奪われる。

 ミルコスキーが踊る男性ヴァリエーションは大きな跳躍の振りが多くテクニックを要する。ダイナミックな踊りの中でも美しさを失わない踊りは観客を魅了する。

 コルポワの踊る女性ヴァリエーションは静かな曲の中で細やかな表現が観る者を惹きつける。


11『マノン』

 久宝すみれ マニュエル・ラクロワ

 Bプログラムでも観客を魅了する。すみれの卓越した表現力とテクニックは観客を惹きつけて離さない。この演目はAプログラムにもあったが、ここでも観客からの大きな拍手喝采を浴びる。


12『ドン・キホーテ』

 アニエス・ルエル ローラン・ディディエ

 ガラ公演ではバレエ作品の中でも定番で音楽、振付の華やかさで盛り上がる演目である。ルエルとディディエの高度な技術と表現力は観客を興奮の渦に巻き込んだ。


 二人が踊り終わった後、一時、騒然となるほどの客席の盛り上がりに、園香は次の美織と優一の演目が少し心配になった。

 この後踊るのは、さすがにきつくないか……そんな、不安が園香の頭を過った。

 舞台は一旦落ち着くまで待った。

 園香はこの演出とも取れる。落ち着きと余裕を感じさせる間の取り方に息を呑んだ。


 劇場全体が、興奮状態から心地よい落ち着きを取り戻した……これは演出なの……


 園香の、そんな思いと同時に静かにハープの音色が流れ始める。


バレエフェスティバルBプログラム最終演目。


13『くるみ割り人形』

 京野美織 久宝優一

 美しく優雅な『くるみ割り人形』アダージオの曲が、さっきまでの騒然とした劇場の空気を浄化した。空気が落ち着きを取り戻した。やさしく、荘厳な世界が繰り広げられる。そしてアダージオのクライマックスに向けて華やかな盛り上がりを見せる。二人が織りなす煌びやかな賛歌に劇場が包まれる。

 観客は心が洗われたような、なにか神聖なものに包まれた心地よさを感じた。大きな拍手と喝采の渦が巻き起こる。


 美しく気品のある優一の男性ヴァリエーション。


 観る者すべての心に刻まれるような幻想的な美織の金平糖の精のヴァリエーション。


 そして、華やかに彩られるコーダでの競演。


 それはまさにこのバレエフェスティバルの最後の演目にふさわしいものだった。

 観客が総立ちになって大きな拍手を送る喝采も飛び交う。

 こんな舞台を園香は観たことがなかった。


そして二人の演目の後、グランド・フィナーレに続く。


14・グランド・フィナーレ

『くるみ割り人形』終曲のワルツ

 全出演者

 Bプログラムも、最後にバレエフェスティバルの出演者全員が登場しルベランス(お辞儀)をしながら踊る。華やかな曲で全員が踊る。


 しかし、今回はプログラムの最終演目が『くるみ割り人形』のグラン・パ・ド・ドゥからのグランド・フィナーレ『くるみ割り人形』終曲のワルツ。そのつながりも流れが美しく観客を感動させた。


 曲が始まると同時に観客から拍手が巻き起こり、フィナーレの間ずっと曲に合わせて拍手が手拍子を奏でる。


 園香も少し前の席にいる唯もお母さんと一緒に手拍子をしながら嬉しそうに観ている。唯は拍手をしながら、美織やすみれ、古都、ルエルが出てくると頭の上で手を叩く様に一層大きな拍手を送っていた。嬉しそうに、にこにこしながら何かお母さんに話し掛けながら拍手する唯。


 拍手と喝采が渦巻く中、舞台は幕を下ろす。


 幕前に出てそれぞれのダンサーたちがパートナーとともにお辞儀をする。もう一度幕が上がり全員でお辞儀をする。


 大きな拍手と喝采の中幕が下りてバレエフェスティバルが終わった。

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