第158話 出会い再会 麗と華

 園香そのかはふと思った。今まで何度も過去にコンクールで真美と出会った人。コンクールで真美を見たという人が声を掛けてきた。

 でも、この二人は今まで真美に声を掛けてきた人たちと少し違う。そんな気がした。


「あれ、真美ちゃんじゃない」

「……」

「真美ちゃん」

 声を掛けられて振り返る真美。周りにいた人たちも振り返る。


 小柄で華奢な女子二人だが、一人は陽気で活発な感じのボーイッシュな女性。もう一人はどこかつかみどころがないおとなしい感じの女性だ。

「あ、はなちゃんにうららちゃん」

「やっぱり真美ちゃんや、久し振り、どうしたん、また、バレエ始めたん」

「うん、ちょっとね」

「え、どこでやってんの? 美香先生とこ」

「いや、今、大学に行っててさ。四国の方で、また、バレエ始めようかなってとこ」

「そうなんや」

「ところで、華ちゃんとうららちゃん、二人はどうして一緒なん?」

「いや、それが今度、大阪で同じ舞台に出ることになってな。仲ようなってん。で、うららちゃんも、このバレエフェスティバル観に行く言うから、じゃあ、一緒に行こうかってなってん」

「そうなん、なんのイベントで二人一緒に踊ることになったん。なんかバレエ協会のやつか?」

「そうそう、今度『ライモンダ』の全幕やんねんで、うららちゃんは主役のライモンダや、私は主役じゃナイモンダや」

うららちゃん『ライモンダ』なん。すごいなあ」

「スルーかい」


 園香は隣で聞いていて、なんだか、大阪の人ってすごいと思った。恵人けいとや周りの人も話の勢いに呆然とする。


「はじめまして、橘麗たちばなうららと申します」

「あ、佐倉園香さくらそのかと申します」

 ずっと隣で静かに聞いていた女性が園香に挨拶してきた。大阪弁でまくし立ててくる女性と対照的で丁寧に挨拶してくる彼女に園香も改まって挨拶を返した。


「ごめんな。なんかワーワー言うて」

「ワーワーて、なんや。ちゃんと喋ってんで。なあ」

「はあ」困った顔をする園香。

うららちゃんは京都の人やから。はんなりして、かなんな」

「大阪の人はにぎやかでよろしいなあ」

「って、なんやそれ」

 園香と恵人けいとがクスッと笑う。


 聞くと、この二人は大阪の牧野バレエスタジオというところの藤沢華ふじさわはなと、京都の宝生鈴ほうしょうりんバレエスタジオというところの橘麗たちばなうららというダンサーだそうだ。二人とも関西では有名なダンサーで特に橘麗たちばなうららの方は国内コンクールで常に上位入賞しており、一位になったこともあるという。


「私ら、真美ちゃんとはコンクールやらバレエ協会の関係やらで、よく顔合わせてたんです」

 うららがやさしい京都弁で言う。

「あのぉ、そちらは河合恵人かわいけいとさんですか?」

 はなが覗き込むように恵人の方を見る。

「はじめまして、河合です」

「んまあ、大スターやんか。私、コンクールで何度かお会いしたことあります……真美ちゃん、紹介してや、紹介してや」華が言う。

「いや、紹介も何も、今、自分で挨拶したやん」

「いや、ほんまや」

「なんやそれ」真美が呆れたように言う。

「あ、僕、二人ともコンクールで踊ってたの覚えてますよ。はなさんダイアナのヴァリエーション踊ってましたよね。うららさんはオーロラのヴァリエーション」

「え、覚えてくれてるんですか、嬉しいです。恵人さんのハートを射抜いたかしら?」

 ダイアナの弓を射る振りをやって見せるはな

 苦笑いする恵人。


 バレエ『エスメラルダ』の中で踊られる『ダイアナとアクティオン』のダイアナのヴァリエーション。月と狩猟の女神ダイアナは弓を持って踊る。踊りの中に弓を射る振りが何か所かある。コンクールでは定番のヴァリエーションの一つだ。

 弓を持たずに踊る場合もあるが、持つ場合は長さが三十センチくらいの小さな弓を持って踊る。


「あ、そうそう、ライモンダといえば、Aプログラムの第二部で美織みおりさん『ライモンダ』踊るで」

 真美が思い出して言う。

「え。美織みおりさんって、京野美織きょうのみおり? なんか知り合いみたいに言うなあ」

 華が驚いた顔をする。

「いや、美織さんやろ。呼び捨てにするなって」

「ええ、普通、芸能人とスポーツ選手はフルネームで呼び捨てやんか」

「いや……」

 真美が園香と顔を見合わせる。

「今、私が通い始めたバレエ教室に美織さん来てんねん。今回も青山青葉あおやまあおばの稽古場行かせてもろうたし。なんか、今、すごい人たちと踊ってんねん」

「まじか」

 華が驚く。うららは終始微笑みながら聞いているという感じだった。


 その後、真美は二人と連絡先を交換していたようだ。


 そんな話をしているうちに第二部が始まる時間になる。

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