第155話 バレエフェスティバルの朝

 バレエフェスティバルの朝。真美がどうしても早く行くというので、園香そのか恵人けいと瑞希みずきと一緒に家を出ることにした。

「こんなに早く行って、夕方まで、どこかで時間つぶすの?」

 瑞希が気にしてくれる。恵人が「どこか観光案内でもするよ」と言ってくれて、なんとか時間をつぶすことはできそうだと思った。


 この前、青山青葉あおやまあおばバレエ団が『白鳥の湖』公演をした同じ劇場だ。

 思った以上に早い時間に劇場に着いたが、もうバレエファンらしい人達が集まっていた。年齢や性別に関係なくいろいろな人が集まっている。バレエをやっていそうな人もいれば、見た感じあまりバレエ経験者ではなさそうな男性もいる。何か芸術的なものに関心があるという感じだろうか。数人の男性女性が自慢のアルバムらしいものを見せ合い。

「これはオペラ歌手の誰々」とか、

「日本舞踊の誰々先生と一緒に写真を撮らせてもらった」とか、

「これは誰々のサインだ」と見せ合い。

「いいですね」などと褒め合っている。

 そんな中で、

「これはバレエダンサーの誰々が日本に来た時、ここで写真を撮らせてもらった」

 とバレエをやっている園香や真美も驚く様なダンサーと一緒に写真を撮ったという話をしていた。そんな話を聞くともなしに聞いていると、一人の男性が近づいて来て、

「河合瑞希さんと河合恵人さんですよね」

 と話しかけてきた。二人の周りに見る見る人だかりができて、瑞希と恵人は写真を撮られたり、サインを頼まれたりしていた。


 一人の女性が恐る恐る園香と真美に近付いてくる。

「あのぉ、鹿島真美かしままみさんじゃないですか?」

「あ、はい」

「コンクール出てた方ですよね」

「ええ」

 その女性はコンクールで見た真美の踊りを見てファンになったといい、真美と一緒に写真を撮り、サインももらっていた。ここでも真美は名前を知られている。

 やはり、国内のコンクールの世界で鹿島真美は有名人だった。

「ハンナ・クラフトよ」

「マリコーワとアンドレイ・サルコフじゃない」

 次々とダンサーがやって来始めた。

古都ことさんよ」人だかりができる。しばらくファンの人達とサインや写真を一緒に撮った古都が、園香たちのところにやって来た。

「おはよう。えらく早いわね」

「おはようございます。真美ちゃんが、どうしても、この時間に来たいというので」

「誰が目当てなの?」

「テレホワとワレリエフ、あとルエル」

「ええ、ルエルは、この前まで一緒に練習してたでしょ」

 微笑みながら古都と瑞希が楽屋の方に歩いて行った。そのあと、ルエルと美織みおり、すみれがやって来た。大きな人だかりができる。三人は園香たちを見ると驚いて話しかけてくる。

「随分、早いわね。これから開演時間まで、どうするの?」

「どこかで時間つぶします」

「ええ、大丈夫。まあ恵人がいるから東京案内でもしてもらったら」

 微笑みながら行ってしまった。

「よ!」

 後ろから肩を叩かれて振り向くと指揮者の恵那えなだ。今回も演奏は恵那たち新高輪フィルハーモニーが務める。

「えらく早いね」

 恵那にも同じようなことを言われた。恵那に続いてオーケストラの面々が劇場入りする。

 その後も有名なバレエダンサーが来るたびに写真を撮ったりサインを貰ったり、真美も目当てのバレリーナと一緒に写真が撮れて喜んでいた。


 結局、その日はあまり劇場から遠くに行っても疲れるからと劇場の近くで一日過ごした。

 開場前に劇場に戻ってくると、ゆいや唯のお母さん、花村バレエのバレエ教師や生徒たちも集まっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る