第150話 リハーサル 白鳥の湖(第三幕)よりグラン・パ・ド・ドゥ

 古都こととデイビッド・ロレンスは『ロミオとジュリエット』『白鳥の湖』を踊る。バレエ『ロミオとジュリエット』の有名な『バルコニーの場』そして『白鳥の湖』は第三幕オディールとジークフリートのグラン・パ・ド・ドゥ。

◇◇◇◇◇◇

 園香そのかと真美、瑞希みずき古都こととロレンスが踊る間、鏡の前で見ている。

『白鳥の湖』の方は青山青葉あおやまあおばバレエ団の公演で見たばかりで皆の記憶に新しい踊りだ。ゆいと真由が嬉しそうに顔を見合わせる。

 すみれが園香と真美に言う。

「あなたたち二人、アダージオからコーダまで覚えておきなさい」

「え」

 二人は目を丸くして顔を見合わせる。

「オディールですか?」

「ええ、これだけじゃないわよ。次のルエルの踊りも全部」

「は、はい」

 園香と真美の表情が真剣さを増した。園香はいろいろな作品のヴァリエーション(踊り)を大体知っている。黒鳥のヴァリエーションも舞台で踊ったことはなかったが振りは知っている。それでも、すみれから改めて言われると緊張する。この踊りを自分が舞台で踊る踊りとして覚えようとしたことがなかった。


 一通り古都こととロレンスが通して、周りの先生たちからアドバイスを受けていた。真理子も二人に何かアドバイスしていた。

 その間に恵人けいとが園香のところに来て「ちょっと、踊ってみようか」と声をかけてくれた。真美にも優一が声を掛ける。アダージオを教えてくれた。恵人に教えてもらいながら、ぎこちなく振付を覚えていく園香。つい数日前ここのバレエ団でこの踊りを踊った恵人は丁寧に教えてくれた。ふと真美の方に目を向けると、初めて踊るようではない。


 真美は黒鳥を踊ったことがある……


 園香の目にはそう見えた。そんなことを考えていると恵人が、

「真美ちゃんはいろいろなヴァリエーションを踊るよね。彼女のスワニルダも見たことがあるよ」

「え、コッペリア?」

「うん、ヴァリエーションだけだよ」

「エスメラルダだけじゃないの?」

「ああ、器用というか、なんでも踊る……コンクールではよくエスメラルダ踊ってたけど、スワニルダと黒鳥も踊ってるの見たことあるよ」

「すごいのね」

「彼女のレパートリーを全部知ってるわけじゃないけど上手だったよ」

「恵人君も一位取ったことあるんでしょう」

「うん、まあ、そんなこともあって、ここでプリンシパルやらせてもらってる」

「じゃあ、真美ちゃんもここに来たらプリンシパル?」

 頷きながら微笑み、

「そうだね。彼女は間違いなくそのレベルだ。考えてみてよ。コンクールなんて大きいコンクールだと三百人くらい出場するんだよ。その中で、いろんな人の記憶に残るダンサーなんだよ彼女」

「すごいのね」

「園香ちゃんもだよ」

「え?」

「ここに来たらプリンシパル」

「いえいえ、とんでもないです」

「でも、すみれさんに呼ばれてここに来てるんでしょ」

「え?」

「この三階の稽古場」

「あ、いえ、ここは瑞希さんに付いて来たというか……」

「でも、ここで金平糖のヴァリエーション見てもらったでしょ」

「ここで、すみれさんに指導してもらったのは……すみれさんに呼ばれて、ここで直接指導してもらったのは、美織みおりさんと園香ちゃんだけだよ」

「え、そ、そうなんですか」

「あ、もう一人忘れてた」

「え?」

 恵人が微笑みながら目を向ける。

ゆいちゃんだ」

 唯がにこにこしながら何かすみれに話し掛けていた。


 古都とロレンスのリハーサルが終わった。


 全員の注目がルエルに集まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る