第149話 リハーサル『マノン』すみれ・ラクロワ

 すみれとラクロワは『グラン・パ・クラシック』『眠れる森の美女』『マノン』を踊る。すみれの踊る三作品は圧巻だ。

 クラシックバレエの最高難度のテクニックで魅せる『グラン・パ・クラシック』を踊るすみれはまさに女王の貫録という感じだ。

 美しく繊細な表現。完璧なポジション。非の打ちどころがない踊り。

 一緒に踊るラクロワも、この高度なテクニックを必要とされる踊りを完璧に踊り切る。

 続いて、古典バレエの名作『眠れる森の美女』豪華絢爛な雰囲気を湛えたチャイコフスキーの曲が稽古場を包む。すみれが踊るオーロラ姫は気品と優雅さ、あらゆる細やかな動きをすべて美しく表現する。

 パートナーのラクロワが演じるデジレ王子も気品が溢れる。男性ヴァリエーションとしては最高レベルの技術と表現力を必要とするヴァリエーションだが余裕を感じさせる踊りを見せる。

 そして、この二人が踊る『マノン』が圧巻だ。

 この作品は地方で上演されることが少なく園香そのかは観たことがなかった。関西育ちの真美でさえ、今まで観る機会がなく今回初めて観たそうだ。

 すみれとラクロワの表現力の奥深さに心を奪われる。なんと詩的、劇的な作品なのだろう音楽にも魅了される。

 フランス貴族アベ・プレヴォーの小説『マノン』を基にしたバレエ作品。曲はジュール・マネス。

 今回、すみれとラクロワは有名な『寝室のパ・ド・ドゥ』と呼ばれる場面を演じる。


 書き物をしている青年デ・グリュー。ベッドに寝ていたマノンが後ろから歩み寄る。そして、デ・グリューが手に持っている白い羽根ペンを取り上げて投げてしまう。

 そこから、二人が愛を語り合う場面がドラマチックに演じられる。高度なリフト、踊りというより演技の要素が強い表現。


「素敵」

 思わず自然に口から出た言葉にハッとする園香。隣にいた瑞希みずきが「本当だね」と言う。

 真美も見入っている。美織みおりと優一でさえ我を忘れる様に、すみれとラクロワの世界に引き込まれているようだ。古都こととロレンスも感服したという様に溜息をつく仕草をする。ルエルとディディエも、その表現力の凄さに言葉を失い首を振りながら微笑む。


 愛を語り合った二人。部屋を立ち去ろうとするデ・グリューをマノンが一瞬引き止め、何か忘れてない? という仕草をする。デ・グリューはマノンと口づけを交わして去って行く。マノンは一人ベッドに飛び込むように寝て音楽が終わる。

 見学していた花村バレエの全員が大きな拍手を送る。海外のバレエ教師たちも「素晴らしい」と褒め称える。小さなゆいはわからないながらも身を乗り出すように見ていた。最後のベッドに飛び込むシーンで嬉しそうに拍手する。

 踊り終わり、すみれが全員に一礼して見学席に戻ってくる。唯の頭を撫で微笑む。唯がすみれにすり寄っていく。すみれが優しく抱き上げると嬉しそうにする唯。

 唯と一緒にキッズクラスを受けていた佐和の妹の真由も、恐る恐るすみれに近づいて行く。すると、すみれは真由に優しく微笑みかけ、頭を撫で肩を抱く。真由も嬉しそうにする。

 そんな、すみれの姿を見て、バレエ教師の北村と秋山も、鬼のような人というのは、ただの噂と言った園香の言葉が理解できた。

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