第144話 舞台を終えて楽屋へ(一)

 客席を出たところで園香そのかは真美と千春たちと会う。千春と大人クラスの数人は「感動した」と泣きながら話をしていた。そこへゆいと唯のお母さんもやって来た。バレエ教師の北村と秋山もやって来て、皆で楽屋へ行こうと話していると、今度の花村バレエの公演でクララをする由奈ゆなやレッスン生の男子たちもやってきた。先程、開演前に話をした松井佐和もこちらを気にしている。真美が佐和に声を掛ける。

「佐和ちゃんたちも行こう」

 佐和と妹たちが嬉しそうにやってくる。結局、大人数で行くことになった。


 唯は美織みおりやすみれに会えることが嬉しいようでにこにこしている。

 楽屋に向かう通路を通り扉を開ける。少し行くと舞台のそでにつながる。衣装を着たダンサーやスタッフが忙しそうに行き来している。バレエ教師が出演者と話しながら通り過ぎて行く。どこか他のバレエ団やバレエ教室などバレエの関係者らしい人達もあちらこちらで話をしている。。


 喜んで歩いて行く唯の足がピタッと止まった。

 目の前にロットバルト姿のげんがいた。唯は首をすくめて様子を窺うようにげんを見る。


「元さん、めっちゃ怖がられてるじゃん」

 後ろから瑞希みずきの声がした。

 元が唯に微笑み頭を撫でようと手を伸ばすと、唯は瑞希の後ろにサッと隠れる。

 瑞希の後ろから、美織みおりとすみれの笑い声が聞こえる。

「唯ちゃん、大丈夫よ」

 美織とすみれを見つけて飛びついていく唯。美織が唯を抱き上げる。唯はルスカヤの衣装を着たすみれの顔を覗き込むように見て微笑む。

 美織が唯に優しく言う。

げんさんよ、花村バレエにも来てくれてたでしょ」

 そう言われて、唯は首を傾げるようにして、もう一度、元の方を見る。

「ロットバルト?」

 と言う唯に。美織とすみれが微笑む。唯は、もう一度、恐る恐る元の方を見る。微笑む元にやっと安心した様に唯も微笑む。


 北村と秋山が近づくのも恐れ多いという様子ですみれの方を見ている。二人に気が付いたすみれが頭を下げてお礼を言う。

「今日はありがとうございます」


 北村と秋山は慌てる様に深々とお辞儀をした。


「オツカレサマデシタ」

 慣れない日本語で数人の外国人がやって来た。振り返った北村と秋山が腰を抜かすようにその場に崩れた。千春や他の花村バレエの生徒も目を丸くして驚く。

 ルエル、ディディエ、ラクロワ、ロレンス……隣に並ぶ距離に世界のプリンシパルたちがやって来た。

 ルエルが微笑みながら、

「コニチワ」と言う。

 千春たちも変なアクセントで、

「コニチワ」と返す。

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