第142話 バレエ『白鳥の湖』幕間(まくあい)

 バレエ『白鳥の湖』第三幕から第四幕へ

 第三幕の『城の広間』の場面から第四幕の『森の湖』の場面へ舞台の転換もあり幕が一度下がるが、第三幕と第四幕の間では休憩時間は取らない。第二幕と第三幕の間には休憩時間があるが、第一幕と第二幕、第三幕と第四幕の間に休憩時間はない。

 一度幕が下りた後、舞台が転換したらすぐに幕が上がり第四幕が始まる。幕が下りている時間はわずかな時間だ。


 舞台の幕が下り、舞台上にいたダンサーたちが舞台袖にハケて来る。


 同時に美術スタッフたちが『城の広間』のセットから『森の湖』のセットに舞台を一転させる。わずかな時間の中で慌ただしく舞台セットを転換する。


 白鳥のコールド(群舞)のダンサーたちがいたに付く。

 瑞希みずき裕子ゆうこの肩を軽く叩いて声を掛ける、

「頑張って、あと少し」

 裕子が頷いて舞台に出て行く。


 第三幕の最後まで黒鳥オディールとして舞台に立っていた古都こと舞台袖ぶたいそでに走ってくる。第四幕が始まるのと同時に白鳥オデットとして登場しなければならない。

 舞台袖に衣装スタッフの来生由香きすぎゆかとティアラ担当の鏡一花かがみいちかが待っている。古都ことそでに帰ってくると、素早く黒鳥オディールの衣装から白鳥オデットの衣装に着替えさせる。

 黒鳥オディールの衣装は男性と踊るためチュチュの背中をきちんと縫ってある。回転をサポートするとき男性の指が衣装に絡まないようにするためだ。激しい三十二回転のグランフェッテもあるため頭飾りのティアラもしっかり付けている。

 由香は手際よく背中の糸を切り一瞬で黒鳥の衣装から白鳥の衣装に着替えさせた。一花いちかも衣装を着替えさせながら、手際よく黒鳥のティアラを取り外しオデットの頭飾りをピンでとめていく。

 ほんのわずかな時間、舞台美術が転換する間に、古都は黒鳥から白鳥に衣装替えした。最後に由香がオデットの衣装の背中を手早く縫い、古都の背中をポンと叩いた。

 古都ことが由香と一花いちかに振り返り、

「ありがとう」

 という。

 由香と一花が古都に微笑む。


 この間、げんも貴族の衣装からロットバルトの衣装に素早く着替える。優一がげんに付いて着替えを手伝う。

 ジークフリートの恵人けいとは衣装の着替えはないが第一幕からずっと舞台に立っている。体力の消耗は凄まじい。

 準備ができたオデットの古都、ジークフリートの恵人、ロットバルトの元が最終幕、第四幕を前にして互いに握手する。古都がすみれ、美織みおり、瑞希と目線を交わす。

 オデットの古都とジークフリートの恵人、ロットバルトの元が目線を交わし頷く。


 間もなく幕が上がり『森の湖』の場になる。いよいよ、この作品の最後の場面が始まる。

 青葉あおばが出演者、スタッフ、舞台の状況を確認する。幕間まくあいの時間は長すぎると観ている人の気持ちから第三幕の余韻が薄れ、気持ちが舞台から離れてしまう。もうその限界の時間が近づいている。

 青葉あおばが古都、恵人、元と目線を交わす。

 舞台袖に付いているとおる、衣装の由香、一花、舞台美術の一ノ瀬、照明の青野と目線を交わす。

 準備が整った。

 指揮者の恵那えなが青葉の合図を待っている。オーケストラ団員全員の意識が恵那の指揮棒に集中している。


 青葉が恵那に合図を送る。


 恵那の指揮で、ゆっくりやさしい曲が劇場を包む『白鳥の湖』第四幕、最終幕の幕が上がる。


――――――

〇板付き・板に付く(舞台用語として)

「板付き」とは舞台の幕が上がったとき、舞台に立っている状態。ダンサー、役者が舞台の立ち位置に立った状態で幕が上がること。

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