第141話 バレエ『白鳥の湖』第三幕(三)

黒鳥(オディール)とジークフリートのグラン・パ・ド・ドゥ

黒鳥(オディール) 九条古都くじょうこと

ジークフリート 河合恵人かわいけいと


 舞台上に王妃やコートレディ、従者や小姓こしょうたちがいる。民族舞踊を踊った各国の姫たちもいる。すみれも大広間の一席に座っている。舞台にこれまでの登場人物が全員そろう。


 ロットバルトがマントをひるがえし広間の中央に登場する。そして、舞台袖ぶたいそでの方に向くのと同時に華やかで力強い八小節の導入。


アダージオ

 颯爽と登場する黒鳥オディールとジークフリート。オディールの美しい黒の衣装には気品と妖艶な香りが漂う。

 古都ことはオディールの動と静の流れるような動きの中で正確なバレエのポジションを取って踊る。プリンシパル古都の柔軟な踊りが一層美しく妖しい光を放つ。

 ゆるやかなニ長調のワルツは劇場を華やかで優雅な世界に包み込む。

 オディールの魔性が引き立つ。古都の表現力の高さに圧倒される。片足を後ろに上げるアラベスク、そのまま上体を後ろにらせる。頭の位置と足先の高さが同じほどの柔軟性。息を呑むほどの柔らかい表現だが上品さを失わない。

 バイオリンの音色が劇場を包む。

 最後のポーズまで観客も舞台のそでにいるスタッフも、まるでオディールの魔法にかかったかのように見入っていた。

 オディールと王子がルベランス(お辞儀)をするときの時、初めて我に返ったかのように拍手が巻き起こった。


ジークフリートのヴァリエーション

 恵人けいとがゆっくり舞台の上奥かみおく(客席から見て舞台の右奥)まで歩いて行く。やわらかく、ゆったりと流れる木管楽器の音色に合わせ、軽やかなグリッサードからのジャンプ、パッセトゥール。

 一つ一つの技術にアクロバティックな技術は入れていないが、どのジャンプもターンも正確なポジションを守りながら優雅に気品のある踊りを見せる。そして、その中でも一つ一つのジャンプは超絶な高さだ。

 最後のザンレールも正確なポジションを守りながら踊るが、技術を見せているという感じはなく、所作の中の一つというさりげない動きに見える。


黒鳥オディールのヴァリエーション

 ハープの音色とともに古都ことが登場する。木管が妖艶な雰囲気を醸し出す。

 アラベスクのターンから美しいピルエットへ。グラン・バトマンからランベルセ。黒鳥の美しいラインが観客を魅了する。

 舞台の下奥しもおく(客席から見て舞台の左奥)から斜めに上前かみまえ(客席から見て舞台の右前)までアラベスクとピルエットの連続で魅せる。すべての振りがあでやかで美しい。見ている者が吸い込まれるほどの表現力だ。

 最後はジュテアントゥールナン。ジャンプと回転を組み合わせて舞台を大きく円を描く様に回る。

 観客から大きな拍手が巻き起こる。


コーダ

 王子ジークフリートの大きなジャンプ。大きな二回のアントルラッセで舞台下奥ぶたいしもおくまで行き、そこからパッセトゥール、着地するときパッセの足を後ろに抜く様にアラベスク。それを二回した後ザンレール。

 そして、オディールの古都が出て来てピルエットから三十二回転のグランフェッテ・アン・トゥールナン。黒鳥の見せ場である。古都はこの大きな見せ場を軽やかに美しく見せる。

 最後に舞台の中央でジークフリートの恵人がオディールの古都を大きなリフト。高いリフトの位置で羽ばたく様にポーズを取る古都。

 華々しくオディールとジークフリートのグラン・パ・ド・ドゥが終曲を迎える。

 劇場が大きな拍手と「ブラボー」という喝采の渦に包まれる。


 ジークフリートはオディールを花嫁に選ぶことを王妃に告げる。花嫁に渡す花束をオディールに渡す。貴族に扮したロットバルトがジークフリートに愛を誓うことを促す。

 王子ジークフリートは高らかに腕をあげ、オディールを花嫁にすることを誓った。


 その瞬間、城内は暗闇に包まれ雷鳴が轟く。城の窓には湖の約束が破られ悲しみに暮れるオディールの姿。

 ロットバルトとオディールは悪魔の本性を現し王子を嘲笑う。オディールは手に持った花束を王子の足元に投げつける。散らばる花を横目に、ロットバルトとオディールは城を去って行った。

 王子はとんでもない過ちを犯してしまったと嘆くが、時は既に遅くオデットと白鳥たちは悪魔ロットバルトの呪いに縛り付けられることを嘆く。

 王子はオデットと白鳥たちへの罪の意識にさいなまれ白鳥たちのいる森の湖に向かう。


――――――

〇グリッサード

足を踏み出すとき軽くジャンプするように移動する。大きなジャンプの前の助走などに使われる動き。

〇パッセトゥール

ジャンプして空中で回転する。このとき空中姿勢は片方の足はまっすぐ下に伸ばし、もう一方の足はパッセ(膝をくの字に曲げ、つま先を伸ばした足の膝の位置につける)の姿勢で回転する。

〇ザンレール

空中で回転する技術。足は五番ポジションのドゥミプリエから真上にジャンプする。右回転の場合、右足前の五番ポジションからジャンプし、空中で二回転したあとその場に着地。着地するとき左足前の五番ポジション(ドゥミプリエ)に着地する。空中では両足はつま先までまっすぐ下に伸ばす。

ドゥミプリエとは踵が上がらないところまで膝を曲げること。

〇ランベルセ

右回転のランベルセの場合、左足軸に立つと同時に右足アチチュードで体を右回転させる。この時、体は少し左に倒すようにしながら回転する。

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