第138話 休憩時間のひととき

 第二幕が終わって休憩時間。園香そのかはホワイエで真美と飲み物を飲みながら『白鳥の湖』の話をしていた。園香そのかはふと開演前に近くの席の女性が話していたことを思い出した。すみれが花村バレエに来るという話だ。真美は聞いていたのだろうか。

「ねえ、真美ちゃん」

 そこへ花村バレエ大人クラスの千春がやって来た。

「すごいね。古都ことさんと恵人けいと君」

「ええ」

「あ、こんにちは、えっと、この前、稽古場に来てた……」

「真美ちゃん。鹿島真美かしままみちゃんです」

 真美が千春に会釈する。真美は園香そのか美織みおり瑞希みずきたち青山青葉あおやまあおばバレエ団で顔を合わせた数人以外、まだ花村バレエの生徒やスタッフの顔をあまり知らない。

「真美ちゃん、こちらは大人クラスの千春さん。教室の近くにある『エトワール』っていう喫茶店やってる方」

「鹿島です。よろしくお願いします」


「ところで、ここは名門バレエ団だけど、本当にすごい人たちばかりね」

 千春は本当に想像以上の舞台という感じだ。

「真美ちゃんは帰ったら、うちの公演出演するんでしょう」

 千春が微笑みながら聞く。

「教室に入会させて頂きました。公演も考えて下さってるみたいです。出番があるかわかりませんけど」

「出てもらうわよ。噂に聞いたんだけど、すごい人らしいじゃない、真美ちゃん」

「いえ」


 そこへ花村バレエのバレエ教師北村と秋山がやって来た。

「あ、こんにちは。北村先生、秋山先生。真美ちゃん今度のうちの公演出るんでしょう」

 千春が聞く。

「こんにちは、みんな。真美ちゃん、今度の公演は真理子先生が配役考えて下さってるみたいだから」

 微笑む北村と秋山。真美も微笑む。


 北村が興奮した様に言う。

「園香ちゃん、恵人君すごいね」

「ええ、本当に……驚いています」

「美織さんとか優一さんもいらっしゃってるの?」

「はい、美織さんたちは楽屋の方に付いてます。瑞希さんも……そうだ、北村先生、秋山先生、千春さんも終わったら楽屋の方に行きませんか?」

 園香の言葉に北村が驚く。

「え、大丈夫なの」

「多分、真理子先生とあやめ先生も行くと思いますよ」

 北村と秋山が手を取り合って喜ぶ。千春も一緒にいた大人クラスの数人と嬉しそうに笑顔を交わす。

「でも、こんなにたくさんで行っていいの?」

 と心配そうに言う千春。


 丁度、そこへゆいと唯のお母さんがやって来た。

「私も行くの」

 唯が笑顔で言う。

「ええ、唯ちゃんも行くの?」

 北村が驚いて言う。

「うん。すみれ先生と美織先生に会いに行くの」

「え、すみれ先生って、久宝すみれさん」

 頷く唯に驚いた表情で北村と秋山が顔を見合わせる。

「すみれ先生、やさしいの」

 微笑みながら言う唯に、顔を見合わせ緊張した面持おももちの北村と秋山。

「すごく厳しい方なんだよねえ」

「いや、いつでも、誰に対しても厳しいわけじゃないみたいですよ」

 園香が微笑む。

「へえ、すみれさんに会ったんだ。バレエ団でもプリンシパル級の人じゃないと話してもらえないって噂だけど」


「それは噂ですよ。なかなか会えないのは本当ですけど」

 園香が微笑む。


 第三幕が始まる時間が来た。

「あ、園ちゃん、なんか話あったのと違う?」

 真美が思い出したように言う。

「ああ、大したことじゃないから、また後で……」

「そう」


 終わったら、また皆で会う約束をして客席に向かう。


――――――

〇ホワイエ

劇場、ホールで客席の外に設けられた休憩できる場所。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る