第136話 バレエ『白鳥の湖』第二幕(一)

バレエ『白鳥の湖』第二幕(森の湖)


オデット 九条古都くじょうこと

ジークフリート 河合恵人かわいけいと

四羽の白鳥 塚原裕子つかはらゆうこ牧泰子まきやすこ三沢貴子みさわたかこ折原芽衣おりはらめい

大きな白鳥 木原佐由美・高橋麗子

ロットバルト 元泰斗げんやすと


 第二幕 情景

 恵那えなの指揮でハープのアルペジオと弦楽器のトレモロ。

 オーボエの奏でる美しい『白鳥の湖』の曲が流れ始める。幕が上がる前に美しく流れる曲は『白鳥の湖』の世界に観客を誘っていく。


 一幕の舞台とは一転して、森を思わせる背景と美しい青い照明だけの舞台。ロットバルトを演じるげんが登場する。人間離れした美しく、しなやかな跳躍。悪魔ロットバルトの存在感はこの作品を引き立たせる。

 元泰斗げんやすとが演じるロットバルトは男性ダンサーでありながら妖艶で人間離れしたものを感じる。本当に魔力を持った悪魔、そんなものを感じる。

 元泰斗げんやすとというダンサーが、これほど超越した表現力を持ったダンサーだったのかと園香そのかは改めて驚いた。花村バレエに来て『くるみ割り人形』の指導をしてくれた時はムードメーカー的な人物かと思っていたが、優一や恵人けいとが踊りや演技の指導を乞う大先輩というのがわかった。

 男性とも女性ともつかない美しく、しなやかな跳躍。キレというものでもない美しく空気に溶け入るようなを帯びた回転、なんなんだろうこれは……見入ってしまう。劇場の観客全員がまるで悪魔ロットバルトの魔法にかかっているようにさえ感じる。

 そして、ロットバルトは舞台から去って行く。


 そのあと白鳥を追ってきたジークフリート王子・恵人けいとが登場する。そこへオデット・古都ことが舞い降りて来て、王子とオデットが出会う場面。古都ことの表現力に目を奪われる。


 そしてコール・ド・バレエ。

 裕子ゆうこというダンサーを先頭に白鳥たちが美しく踊る。稽古場で見るのとは全く違う美しい群舞。

 そろっている……まさに寸分の違いもなく動きも列もすべてがそろっている。このコールド(群舞)のダンサーたちは主役も踊るプロのダンサーたちなのだと実感した。大勢で踊っているが、一人一人に目を向けてもレベルの高さはひと目でわかる。

六人四列の整然とした四角い形から蛇行するように移動したかと思うと、次の瞬間、裕子を先頭に美しい三角形のフォーメーションをとる。


「綺麗」

 どこからともなく声が聞こえる。


 そして、コールドに続き、白鳥たちのワルツ。美しく優雅な白鳥たちの群舞。

 美しいワルツに心を奪われるように見入っていた。


 ハープの美しいカデンツァが劇場を包み込む。その幻想的な音色とともにオデットが舞い降りる。詩的な音色に包まれるヴァイオリンの独奏。

 この作品の最大の見せ場の一つである。


オデットとジークフリートのグラン・アダージオ

オデット 九条古都くじょうこと

ジークフリート 河合恵人かわいけいと


 表現にせられる。踊りということを忘れさせられる。感情がつむぎ合わせる美しさ。詩的な情緒あふれる世界。音楽と目の前で繰り広げられるの表現に包み込まれるような感動。

 それを表現する者を美織みおりとすみれは『エトワール』といった。

 今この劇場にいる観客、出演者全員の魂と、ここにある踊り、音楽、照明、舞台にあるすべてのものが共鳴する瞬間を見た気がした。。

 最後はオデットとジークフリートが中央でポーズを取り、二人を中心にコールド(群舞)のダンサーが左右斜め後ろの方向にVの字を描いて並ぶ美しいフォーメーションを描く。


 踊り終わった後、恵人けいと古都ことをエスコートしルべランス(お辞儀)客席から大きな拍手と喝采が巻き起こる。

 古都ことは客席に何度もお辞儀をした後、指揮者の恵那えなとオーケストラの団員にお辞儀をしたのがわかった。

 恵那えなとオーケストラ団員全員が古都ことの方に振り返りお辞儀をする。あまり見ない光景だ。美しい、園香は、その光景に、気が付くと涙が頬を流れた。

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