第131話 開場
舞台上で出演者全員でバーレッスンをする。そして、最終確認をした後、本番の準備に入る。
ロビーではスタッフの人たちが落ち着いた雰囲気で準備を進めていた。まだ開場までには一時間以上あるが、既に劇場の外にはお客さんがたくさん来ている。
「私たちも一度外に出た方がいいでしょうか?」
園香がスタッフに聞くと「ここで待って頂いていいですよ。お知り合いの方と外で待ち合わせがあるなら、そちらの出入り口から出て頂いたらいいですので」と言われた。
結局、ロビーで待たせてもらうことにした。
開場と同時に流れ込むように観客が入って来る。花村バレエの生徒も何人か入って来るのが見えた。真理子に気が付くと挨拶に来る子やお母さんたちもいる。大人クラスの千春がやって来た。
「先生お手伝いされてるんですか? さっき、
千春と大人クラスの数人が真理子と話しているところに、
「先生、おはようございます。うちの子が長い間、休ませて頂いてご迷惑おかけしています」
佐和のお母さんが真理子に話しかけてきた。周りにいる園香たちのことは気にしていない感じだ。佐和のお父さんもバレエやピアノなど芸術関係のことには関心があるようで、佐和がピアノコンクールでいい成績を修めたことを報告していた。
佐和は三姉妹の長女で中学二年生だ。妹の
園香たちが
花村バレエの公演の振付は既に全部通っている。真理子とあやめも、突然の申し出に少し戸惑ったようだったが、公演まで期間もあるし、どうにかなると思い承諾した。
あやめが佐和、理央、真由に微笑む。お父さんとお母さんはどこか誇らしげな表情で真理子と話していた。
あやめが佐和に話しかける。
「ピアノ頑張ってるのね。これから公演まではバレエに集中できるの?」
「はい」
佐和は園香と一緒にいる真美が気になっている様子だった。
「あのぉ、そちらの人は」
「ああ、つい最近入った
あやめが紹介する。佐和はじっと見つめながら会釈した。
「いろいろなコンクールに出られていた方ですよね」
少し戸惑いながら頷く真美。真美は佐和にも知られている。
「私、鹿島真美さんの踊り好きなんで覚えてるんです。ジュニアの高学年の部で
「瑞希さんに勝ったなんて、ないから……」
言葉を制するように真美が言う。そして、少しきつい視線を佐和に向ける。
「初対面で申し訳ないけど、私は二位だった。二位以下の差と、瑞希さんと私の差は全然違うから……ここを直したら届くとか、そういう差じゃなかったから、そういうことは言わないで、言葉に気を付けて」
「すみません。気を付けます。私、真美さんの踊り好きなんです。でも、真美さんにも負けないように頑張ります」
「そう……」
少し呆れたような顔で佐和を見る真美。
園香は隣で驚いて聞いていた。
「真美ちゃん、コンクール、瑞希さんと同じ部門で踊ったことあるの?」
「うん、でも、瑞希さんの『ジゼル』のヴァリエーションは完璧だった」
隣で一年生の真由が唯に、
「唯ちゃん、お稽古、頑張ってる? 唯ちゃんは小さいから、きちんと踊れるように私が教えてあげる」
と言う。
唯が周りにいる園香たちを見回して困ったような表情で下を向く。真美がもう一度、呆れた表情で溜息をついて優しく唯の頭を撫でる。
そのあと、花村バレエのバレエ教師、北村と秋山もやって来た。
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