第128話 迷いと驚き
しかし、今日、
先程まで嬉しそうにパンフレットを見ながら「ママ、すみれ先生でてるよ」などと言っていた唯はさすがに今日一日のゲネプロに疲れたのだろう、いつの間にか眠ってしまっている。
唯をきちんとベッドに寝かせパンフレットを眺める様に見る。プリンシパルの写真が並んでいる。
「え!」
思わず大きな声を出してしまった。
唯が一瞬目を覚ましたようだが、また、眠ってしまった。
もう一度パンフレットを見返す。最初の方のページに
「今回の公演を最後にバレエ団プリンシパル
内容としては、この公演が
長年バレエ団でプリンシパルを務めてきた
これは青山青葉バレエ団のファンでもある唯のお母さんには大きなショックだった。すみれと美織は多くのバレエ団ファンにとって、このバレエ団の顔ともいうべき存在だ。
何か大きな目標を見失ったような気がした。
◇◇◇◇◇◇
同じ頃、
「瑞希さん知ってたんですか?」
園香と真美の言葉に頷く
「まあ、すみれさんバレエをやめるわけじゃないし、また、バレエ団にはゲストとか、そういう形で来てくれると思うから」
「どうするんですか、すみれさん、これから」
「それは、ちょっと」
瑞希も恵人も黙り込む。
「なんか知ってるんですか? これから、どうされるか」
「うん、それについては思うところがあるみたいだけど、まだ、確定じゃないから、いろいろ騒ぎになってもいけないから、ちょっと、ごめん、まだ言えないんだ」
「え、でも、別に私たちテレビとか雑誌とかマスコミの人じゃないから、知っても別に……ねえ」
園香が真美の顔を見る。
「うん、そうだね。でもまあ、すぐわかるから、ちょっと待ってよ。あんまり言うと
瑞希がどうしても言えないという口振りで恵人の方に視線を向ける。
「え? なんで、すみれさんのことで美織さんに叱られるんですか?」
真美が不思議そうな顔をする。
「え、ほら『まあ! あなたはなんてお喋りなんでしょう!』とかさあ」
「なんですか、それ」
「美織さんは知ってるんですか?」
「うん、まあ、確定ではないから、すみれさんが、どう考えてるかを知ってるって感じかな」
「ふーん、別に言ってくれてもいい気もするけど、まあ、このパンフレットくれてるんだから、明日、美織さんに聞いてみるのは別にいいですよね」
「うん、いいんじゃない」
「海外に行くとか……ですか」
園香が呟く。
「でも、ついこの前私たちの踊り見てくれるって、園ちゃんの『金平糖』だって見てくれるんでしょう」
「そうだ。そう言ってくれた。じゃあ、どういうことだろう? バレエ団の人は知ってるんですか?」
園香の言葉に恵人が頷きながら答える。
「もちろん知ってるよ。こんなサプライズ公演直前に伝えられたら、それこそ団員全員が動揺するでしょう。あ、その、やめることを知ってるってことだよ。これからのことは、まだ、すみれさん、たぶん誰にも言ってないと思うから」
結局「まだ、はっきり決まってないから言えない」の一点張りで、瑞希も恵人も言ってくれなかった。
園香と真美が「決まってないという前提でいいから」と言っても「それでも言えない」という。
余計に気になる二人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます