第10章 青山青葉バレエ団 白鳥の湖

第124話 青山青葉バレエ団 劇場入り

 公演前日、園香そのかたちは朝早い時間に劇場に着く。都内でも有名な歴史ある劇場だ。

 来週のバレエフェスティバルもここで開催される。

 大きいホールだ。園香はこんな大きいホールは初めてだと思った。園香は真美の方をちらっと見る。真美はこういうところで踊ったことがあるのだろうか。

 瑞希みずきは慣れている様子で、まるで自分のホームグランドの様に劇場に入って行く。スタッフの人たちに挨拶をしながら狭い通路を楽屋まで歩いて行く。

 一体いくつ部屋があるのだろうと思うほどたくさんの控え室がある。出演者たちが稽古着姿で忙しく準備をしている。

「おはようございまーす」

 数人の団員たちが園香たちに挨拶して通り過ぎて行く。瑞希が微笑んで挨拶を返す。


「おはようございます」

 寿恵としえしずかが園香たちに挨拶する。

青葉あおば先生は奥の控え室にいるの?」

 瑞希が寿恵に聞く。

「ええ、美織みおりさんたちも来てましたよ」


「おはよう、瑞希、久し振り」

 ここにきて初めて見る男性が二人やって来た。

「おはようさとし。おはようございます哲也さん」

「おはよう。おまえ、昨日の舞台観に来てくれなかっただろう」

「ごめんなさい。こっちに呼ばれてて」

 哲也という先輩の言葉にわるびれる様子もなく答える瑞希。

「あ、こちら手伝いに来てくれてる園香ちゃんと真美ちゃん」

「あれ、コンクールでエスメ踊ってた大阪の人だよね」

「はい」

「覚えてるよ。鹿島真美かしままみさん、カッコよかった」

「い、いえいえ」

「おれ智です。こちらが先輩の哲也さん」

「知ってます」

 真美が微笑む。

「おれも覚えてるよ、君踊り上手だったよね。おれたち昨日まで別のところで『ドン・キホーテ』の全幕公演やってたんだ」

「え、どこかのバレエ団のゲストですか?」

 真美が聞く。

「いやいや、青山青葉あおやまあおばバレエ団だよ」

「えー! ここの団員って、今日のメンバー以外にも全幕公演ができるほど人数いるんですか?」

「ああ、いるよ。今日はそのメンバーたちも手伝いに来るよ」

 真美が驚く。園香も噂には聞いていたが改めて驚いた。今日のメンバー程ではないにしろ、このレベルのダンサーが他にも百人近くいるということだ。

「そうそう、さっき青葉先生に挨拶に行ってたんだ。奥の部屋にいるよ」

「ありがとう」


 瑞希について行くと、青葉あおばとおる、美織や優一が来ていた。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「おはよう。今日はよろしくね。二人もよろしくね」

 園香と真美も挨拶をした。

 そして少ししているとゆいと唯のお母さんもやって来た。どうやら今日も見学させてもらえるようで控え室や舞台裏を青葉が案内していた。


 園香や真美は、今日は手伝いをするということで来ていた。出演者ではないので二人には控え室がない。邪魔にならないようにしなければと思うが、分からずにうろうろしていたら、出演者やスタッフの邪魔になる。とりあえず瑞希について行動する。

「手伝って」と言われていたが、実際にはほとんど手伝うこともなく、後にして思えば青葉やみんなが気を利かして団員の公演当日の姿を間近で見せてくれたのではないかとも思えた。

 園香と真美は唯と唯のお母さんと一緒にいた。瑞希も今日はもう特に忙しくすることもなく、いざというときにすぐ動けるようにしておくのだと本人も言っていた。


 団員たちは舞台の照明スタッフやその他のスタッフの準備ができたら、ゲネプロ(本番と同じようにするリハーサル)をする。団員たちは準備のため楽屋の方に行った。


 園香たちの隣で、唯は今日も嬉しそうにニコニコしながら見ている。

 優一や美織、瑞希は出演者の様子を見てくると言って楽屋の方に行った。今は特にすることがないから、客席で見ていてと言われ、園香たちは客席で待機している。そこへ花村バレエの真理子とあやめがやって来た。


 気が付くと海外のプリンシパルたちも見に来ていた。彼らは来週ここで踊るのだ。

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