第122話 公演まであと少し 瑞希の家で
瑞希はバレエ団の関係者なので、一人先に帰ることもできず、少なくとも全体練習が終わるまでは練習に付き合うことになる。園香と真美も必然的に練習に付き合う形になる。
主役で基本的にすべてのダンサーに絡んでいる
園香と真美が瑞希と一緒に先に家に帰り、後から恵人が帰ってくる。
恵人は疲れ切って帰ってくるが、瑞希や園香たちがリビングでお喋りをしたり、テレビを見ながら待っているので、恵人もどうでもいいような話に付き合わされることになる。
瑞希のお母さんはいろいろと優しくしてくれる。デザートの果物をみんなで食べる。
食後はリビングでバレエのDVDを見ながらお喋りの時間になる。
「ところで、瑞希さんって、どうして
園香が興味深そうに聞く。
「ああ、うちの親がバレエ教室始める前に青山青葉バレエ団にいたの。だから私と恵人も小さい頃はここで稽古してたけど小学校高学年ぐらいからバレエ学校に行くようになったの」
「ええ! そうなんですか。お母さん、あそこのバレエ団員だったんですか」
園香と真美は驚いて顔を見合わせる。
「うん、お父さんも」
「ええ! 瑞希さんたちって、親の代からサラブレッドなんですね」
驚く真美の言葉に、瑞希が少し考えて言う。
「ん? いやいや、おじいちゃん、おばあちゃんはバレエ関係ないよ。両親がバレエダンサーだから、その子どもがサラブレッドって言うんじゃない」
「え?」
真美が少し混乱している。
「いや、だから、自分で言うの変だけど、それを言うなら『親の代からサラブレッド』じゃなくて『瑞希さんたちってサラブレッドなんですね』じゃない?」
疲れた顔をした恵人が笑いながら、
「真美ちゃんも、なかなか、あれだね、なんていうか天然の要素ありだね」
「そうなん、まあ、温室育ちの園香ちゃんや恵人君と違って天然モノなんかなあ」
「なんだか、よくわからないけど、さすが大阪の人、どこからボケのパンチが飛んでくるかわからないノーモーションのボケみたい感じだね」
「それちょっと違うなあ、私なんかは、来ることわかってて『来たー』みたいなのが好きなんやんかぁ。ノーモーションのボケはスルーされるで」
笑いながら聞く園香と瑞希。
真美がいるおかげで、間が持たないということがない。変んな緊張を感じずに済む。
そして、真美がいつか言っていた、バレエに対する諦めや絶望感みたいなものが消えたようで、園香は嬉しかった。
「真美ちゃんは、今度の花村バレエの公演出るの?」
恵人が聞く。
「どうやろ、私ここへ来る直前に一回教室に行っただけやんかぁ、美織さんとか瑞希さんは『一緒に出よう』って言うてくれるけど、花村先生とか、どう思うてくれてんのやろ」
「まあ、配役決まってるから、今度の公演は大勢で踊る踊りとかじゃない」
瑞希が果物を食べながら言う。
「それでも、すごく嬉しいんですけど、そこも踊る人決まってんのとちがいますぅ?」
「でもやっぱりソロとかがいいでしょ」
瑞希が微笑みながら言う。
「大丈夫です。私も唯ちゃんみたいに端っこでも魅せますから」
「え? なんのこと」
瑞希が不思議そうな表情で言う。
「あ、瑞希さん、あの時いなかったですよね。唯ちゃんがキャンディ踊った時」
真美が果物を食べながら言う。
「え、キャンディ踊ったの?」
「ええ、すみれさんの前で」
「まじか」
驚く瑞希。頷く園香と真美。
「で、唯ちゃん、どうだったの?」
「いや、もうすごいの。みんな拍手喝采」
「ええ、そんなにすごかったんだ」
「すごいよ。園ちゃん、唯ちゃんがあんなに踊れるって知ってた?」
「まあ、普段からキャンディの踊り見てたけど、唯ちゃん一人で、最初から最後まで全部間違えずに踊れたのは、さすがにびっくりしたよ」
「へえ、すごかったんだ」
瑞希もそれを聞いて驚いた。
「私も今まで、なんとなく全体見てたから、唯ちゃんが一人であれだけきちんと踊れるとは思ってなかったんです」
園香が思い出すように言う。
その日は、そんな話をしばらくして園香と真美は瑞希の部屋で寝た。
次の日も午前中からバレエ団のレッスンに参加する。
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