第121話 白鳥の湖(第二幕)白鳥たちの素顔

 とおるげん、優一が恵人けいと古都ことのグランアダージオのアドバイスをしている。恵人けいと古都ことがリフトやサポートを確認している。


 先程、大きな白鳥を踊っていた二人が美織みおりのところへやって来た。

 キッズクラスでゆいが馴染めず寂しそうにしていたとき、クラスを担当していた二人だ。公演の練習もしながら空いた時間でレッスンを受け持っているようだ。

 唯も二人を覚えていたようで、にこにこ微笑みながら二人を見る。

「あら、唯ちゃん。見に来たのね」

「はーい」

 と元気よく手をあげて返事をする唯。

「元気になってよかった」

 園香そのかと真美も二人と目が合うと会釈をした。

木原佐由美きはらさゆみと申します。花村バレエから来られてる方ですよね。先日はありがとうございました。レッスンお手伝いしてくれて」

「いえ、お手伝いなんて」

「私は高橋麗子です。本当に助かりました。ありがとうございます。本番の舞台も観に来て頂けるんですか?」

「はい」

 先程、リハーサルで『大きな白鳥』を踊っていた時はもっと背の高いダンサーかと思って見たが、近くで話すと園香や真美と変わらず意外と小柄な二人だった。

「二人はここのバレエ団のプリンシパルなの」

 美織みおりが微笑みながら言う。

「そ、そうですよね。三階の稽古場にいらっしゃいましたもんね。ところで、ここのバレエ団ってプリンシパルは何人いるんですか?」

 真美が興味深そうに聞く。

 佐由美という女性が微笑みながら、

「すみれさん、古都ことさん、啓子けいこさん、優子さん、康子、美弥みや、麗子と私。男性はとおるさんとげんさん、哲也、まことさとし恵人けいと、そうそう、瑞希みずきもここのプリンシパルよ」

「そうよ、瑞希はここのバレエ団所属よ。三階の稽古場で練習してた人の中には、今はもう指導専門にやってる先生方もいるから、もっと人数いたと思うけど、現役で主役なんかを踊ってるプリンシパルはそんなとこかな」

「それに美織みおりと優一も、ここのダンサーみたいなものだから」

「ありがとう」

 美織が微笑む。

 佐由美が微笑みながら園香と真美に言う。

「あなたたち二人もここに来たらなれるんじゃない」

「え?」

「プリンシパル」

「まさか」

「でも、あなたたち、すみれさんに声を掛けられて三階に来たんでしょう。今の実力はともかく、すみれさんに才能を見初みそめられたら、きっとなれるわよ。プリンシパル」

「そ、そうなんですか」

 園香と真美が顔を見合わせる。

 佐由美が微笑む。そして、ゆいの頭をやさしく撫でて、

「唯ちゃんも、ここのプリンシパルになる?」

 と聞くと、きらきらした笑顔で、

「はーい」

 と手をあげて返事をする。


「唯ちゃんは未来のエトワールよ」

 美織が唯を抱きしめる様にして言う。唯は美織に抱きつく様にして微笑む。


 そのあと美織が佐由美と麗子の『大きな白鳥』で気付いた注意点を伝える。

「この踊り大きくゆったり踊ってるように見えるけど、意外と速く動きをまとめていかないと曲に遅れたり、ポワント乗り切れなくなっちゃうよ」

 そこへバレエミストレス(先生)の女性がやってきた。

「あなたたち素人じゃないんだからきちんと踊ってね」

 美織が振り返る。

「松野先生」

「美織さん、お久し振り。元気そうね。私もそのうち花村バレエのリハーサル見に行かせて頂くわね」

「よろしくお願いします」

「そうそう、近いうち康子も行くって言ってたわよ」

「え、康子ちゃん」

「ええ、あそこ」

 瑞希みずきと一緒に『四羽の白鳥』のダンサーに何か指導している女性が康子というダンサーのようだ。小さい頃からの美織の親友だそうだ。


 その日はその後も、園香や真美、唯と唯のお母さんも、バレエ団のダンサーやたくさんの指導者たちがダンサーに指導しているところを見ることができて貴重な一日となった。


 リハーサルが終わり、それぞれ家路につく。瑞希、園香、真美と唯、唯のお母さんは駅まで一緒に歩く。


 公演本番まであと数日。

 それから数日は園香と真美は引き続き三階ですみれにレッスンを見てもらい、唯はキッズクラスで新しくできた友達と一緒にレッスンを受けた。

 唯はキッズクラス担当の佐由美と麗子とも打ち解け楽しくレッスンを受けることができた。

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