第120話 白鳥の湖(第二幕)白鳥たちの踊り

 コール・ド・バレエ(群舞)から白鳥たちのワルツ。

 一人一人の踊りが美しく丁寧で、そのレベルの高さに驚かされる。


 その後、オデット・古都ことと王子ジークフリート・恵人けいとのグランアダージオ。このレベルの高いコールド(群舞)を周りに付けての二人の踊りは圧巻だ。


 見学させてもらっている園香そのかたちは息をするのも忘れるように見入っていた。


 そして、この主役の二人の踊りの最後は舞台の中央で二人が美しいポーズを取る。二人を中心に左右、それぞれに十二人ずつ、二十四人のコールド(群舞)のダンサーがVの字に並ぶ。

 バレエ『白鳥の湖』の中で最も美しい場面の一つである。


 四羽の白鳥(小さな白鳥)

 バレエ『白鳥の湖』の中で、最も有名な曲、有名な踊りの一つといえる。嬰ヘ短調、四分の四拍子、ファゴットとオーボエの音色が奏でる。弦楽器とフルートが重なり軽妙な主題を繰り返す。

 曲の最初からほぼ最後まで、四人のバレリーナが等間隔で手をつないで踊る。


 大きな白鳥

 ゆったりした優雅な曲。今回の公演の演出では二人のバレリーナが踊る。優雅に大きく踊る踊りは美しい。

 四羽の白鳥と異なり、二人のバレリーナが距離をとって踊る。動きも大きくジャンプしたり、足や腕も大きく使う。その大きく優雅な動きのなかで二人の踊りが寸分の違いもなくピッタリ息が合っている。


「すごい」

 園香は思わず声を出してしまった。

「めちゃくちゃ綺麗やね」

 真美も呟く。

 ゆいと唯のお母さんが見入っている。


 オデットのヴァリエーション

 主役オデットのソロヴァリエーション。最も優雅で気品のある踊り。

 これはプリンシパルにしか踊ることが許されない踊りである。

 決して大きなジャンプやたくさんの回転技など超絶技巧がある踊りではない。

 しかし、一点、オデットに見えなければならない。この作品に登場するたくさんの白鳥たちの中で、白鳥の女王オデットに見えなければならない。

 ダンサーたちが、スタッフたちが、そして観客がオデットと認めなければならない。

 この一曲でこの公演のレベルが見極められるといっても過言ではない。


 古都ことが踊るオデットは素晴らしく、踊り終わった後、周りにいたダンサーやスタッフの大きな拍手に包まれた。


 このオデットのヴァリエーションは園香そのかにとっても憧れの踊りだ。いつか踊りたいとずっと思っている踊りだ。

 美織みおりは一体いつからこの踊りを踊っていたのだろう……

 初めて踊ったのは、いつなんだろう……

 そんなことを考えながら、園香は自分たちの隣でリハーサルを見ている美織を見つめる。

 この名門バレエ団で、この踊りを踊り続けてきたのは京野美織きょうのみおり。彼女がそこに立っている姿を見たいと思った。


 コーダ

 バレエ『白鳥の湖』第二幕の締めくくりの曲。

 コール・ド・バレエ(群舞)のダンサーたちが全員で踊る。四羽の白鳥を踊ったダンサー、大きな白鳥を踊った二人。ここまで第二幕を踊った総勢三十二人が踊る。

 そして曲の盛り上がるところでオデットが登場し舞台のセンターで踊る。オデット、白鳥たちが全員で踊る。華やかな場面だ。


 整然と三十二人のコールド(群舞)が並んで踊る。そこに再びオデットとジークフリートが現れると、コールド(群舞)のダンサーは円を描く様に二人を中心にして回る様に踊る。

 その周りの三十二人のダンサーたちが美しい円を描くように左足を前に上体を伏せ、その中央でジークフリートがオデットを高くリフトする。

 三十二人のコールド(群舞)の中央でオデットの羽ばたく様な美しいリフト。

 コーダが終わる。


 そして、夜が明け始め辺りが明るくなってきたとき、王子ジークフリートはオデットに永遠の愛を誓うことを約束する。

 人間の姿に戻っていた娘たちは、再び白鳥の姿に戻り湖を去って行く。


 第二幕の白鳥たちの踊り『白鳥の湖』の場面が終わる。


 園香や真美、唯を始めスタッフ全員、まるで本番の舞台を見ていたような感動に包まれ稽古場に大きな拍手が鳴り響いた。

 小さな唯も感動からか涙を拭く様にしながら拍手を送っていた。唯のお母さんはずっとハンカチを手にして目元を抑えている。

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