第119話 白鳥の湖(第二幕)オデットと白鳥たち

 裕子ゆうこを先頭に総勢二十四人のコールド(群舞)のダンサーが美しく列をして登場する。

 二十四人全員の体の向き、顔の向き、腕の形、高さ、動き、すべてが寸分の違いもなくそろっている。

 二十四人が六人四列の整然としたフォーメーションで踊る。

 右半分の十二人と左半分の十二人が交差するように入れ替わる。まったくフォーメーションが崩れない。

 二十四人が美しく蛇行する様に流れるような移動をしたと思うと、次の瞬間、裕子を先頭に全員で三角形の形に並び踊る。

 鳥肌が立つような美しい光景だった。


 最後は舞台の中央に花道を作る様に左右九人ずつ縦に並ぶ。そこへ八人のダンサーが舞い降りる様に現れ、客席から見て右側の列の先頭のダンサーの前に斜めに並ぶ。

 その縦に並んだ二列の中央後ろから、並んだダンサーたちを花道にして、オデット・古都ことが登場する。

 美しい。


 園香そのかも真美も、噂には聞いていたが、青山青葉あおやまあおばバレエ団のコールド(群舞)がこれほどすごいのかと改めて思い知らされた。


 海外から来ているプリンシパルたちが素晴らしいという表情で顔を見合わせている。

 小さなゆいも身を乗り出すようにして見入っている。ゆいのお母さんも、あまりの美しさに涙をぬぐう様にハンカチで目元めもとを抑えながら見ている。

 今、目の前で踊っている二十四人はプリンシパルではない。誰一人名前を知らないダンサーばかりだったが、そのレベルの高さに驚愕した。


 瑞希みずき美織みおりが厳しい目線を向けている。

 すみれは鏡にもたれるようにして見ている。


 この場面、縦に並んだ二列のダンサーたちを花道にして現れるオデット。

 今は古都ことが踊っているが、古都ことは長い間、海外で活躍していたバレリーナだ。


 園香そのか青山青葉あおやまあおばバレエ団の『この場面』を何度かバレエ雑誌やテレビで見たことがあった。


 園香の印象の中で、名門青山青葉あおやまあおばバレエ団『白鳥の湖』全幕でオデットとして頂点に立ち続けていたバレリーナは京野美織きょうのみおりだ。

 園香の心の中にある青山青葉あおやまあおばバレエ団の最高位に君臨するプリンシパルは京野美織きょうのみおりであり、このバレエ団のオデットは美織みおりの印象しかなかった。


 こんなすごいところでプリンシパルを務め続け、オデットを踊り続けてきた美織。


 園香には想像ができないことだった。

 今、自分たちにバレエを教えてくれている美織がこれほどすごい人だったのかと改めて隣にいる彼女を尊敬の眼差しで見つめた。

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