第114話 青山青葉バレエ団 シンデレラのガラスの靴

 園香そのかたちに気付いた由香は作業の手を止めて微笑む。

「来てくれたのね」

「はい」

 頷く園香。

 しかし、ふと気が付いたことがあった。

 この前、由香が花村バレエを訪れた時、その場にいた出演者全員の採寸をしていた。ゆいたちキッズクラスの子も一人一人採寸して彼女の持っていたノートにメモを取っていた記憶がある。園香もかなり細かく採寸された。

 しかし、何か違和感を感じる。この衣装は美しさばかりに目がいっていたが、自分のサイズに合っているのだろうか?

 由香が微笑みながら言う。

「園香さん、これ、あなたの衣装よ。もうすぐできるから」

「すごく綺麗……こんな美しい衣装初めて見ました」

 微笑む由香に、少し不安そうに園香が言う。

「でも、なんだか、すごくスリムな感じなんですね」

 ここまで完成していてサイズが合わないということがあるのだろうか。そんなことを気にする園香に、それを察した様に由香が言う。

「これ、主役の衣装よ。一番美しい形に作ってあるの。もし衣装のサイズが合わなかったら、あなたの体を衣装に合わせてね。これが一番美しい形だから」

「え……」

 目が点になる園香に、少し悪戯っぽい表情で由香が言う。

「いいわ、ちょっと着てみて」

 簡易な試着室のようなところで由香に手伝ってもらいながら衣装を着てみる。


「え?」

 衣装が体にフィットするようにスッと着ることができた。背中のホックをとめて皆の前にでる。鏡の前に立つ園香の姿に美織みおりも真美も驚きの表情だった。

 なにより衣装を着た園香が一番驚いた。


「シンデレラのガラスの靴」


 後ろから鏡越しに微笑みながら園香を見る由香。

「この衣装は、世界中で、あなたしかサイズの合う人がいないの」


「きれい!」

 唯が笑顔で言う。園香はその言葉でやっと我に返ったかのように唯に微笑んだ。


「ちょっと動いてみて」

 という由香の言葉に、園香は腕をあげたり動かしたり、体を前後左右に動かしたり、ねじる様にしたり、かがむようにしてみたり、飛んでみたり、何をしてもまったく違和感がない。

「こんな衣装初めてです」


 微笑む由香。

「この衣装、美織とすみれがプレゼントしてくれるみたいよ」

「え!」

「あ、そうそう、私からもね」

「え、それは……」

 戸惑う園香に美織も微笑む。

「綺麗よ。気にしなくていいから練習頑張ろうね」

 どうしていいかわからず、深々と頭を下げる園香。

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