第108話 青山青葉バレエ団 プリンシパルとのレッスン(二)

 センターレッスンになる。園香そのかと真美は必死で団員たちの動きについていく。美織みおり瑞希みずきはアダージオ(ゆっくりした動き)からアレグロ(速い動き)まで、ここにいるプリンシパルダンサーたちからも羨望の眼差しで見られるほど完璧に踊る。

 ときどき美織が園香と真美のところにきてアドバイスしてくれる。


 すみれはゆいに付いてスキップをしたり、ギャロップをしたり、そのあとも、バレエの動作、エシャペやシャンジュマンなど比較的簡単な基本動作を一緒に踊って教えている。

 楽しそうにニコニコ微笑みながら、すみれの真似まねをして稽古をする唯。やったことのある動きもあるようで、何かしきりに唯がすみれに話しかけるような仕草をしていた。すみれも微笑みながら唯の言うことに耳を傾ける。

 結局、センター以降、すみれは、ほとんど唯に付きっきりで、皆と同じレッスンメニューはやっていなかったように見えた。


 こういうとき、ここのバレエ教師たちは、すみれのすることに一言も何も言わない。

 園香や真美の目から、こういう場面を目にしたとき、このバレエ団の中で、プリンシパルたちの中でも、すみれが特別な存在であるように感じた。


 センターレッスンが終わった後、すみれが唯に言う。

「少し待っていてね。あとでキャンディやろうね」

微笑んで頷く唯。

 お母さんのところへ唯を連れてくる。

「唯ちゃん上手ですね。それにすごく頑張り屋さんです」

そう言って微笑む。

 お母さんは憧れのバレリーナすみれに深々と頭を下げた。


◇◇◇◇◇◇


 その後、今日も美織や優一、ルエルたちは別の稽古場に行った。この稽古場には古都こと恵人けいと、すみれとラクロワ、ロレンスが残った。

 バレエフェスティバルのリハーサルをサッと流した。流したといっても一切手は抜かず一回で完璧と思われるように踊る。

 古都の踊りを見てすみれが微笑みながら何か話していた。


 すみれは自分たちの練習の後、園香の『金平糖の精』を見てくれた。昨日の注意がよく守れていると褒めてくれた。そして、その日も課題として細かい表現について丁寧に教えてくれた。


 更にその後、今日のバレエ団のセンターレッスンでやったアンシェヌマンについてアドバイスしてくれた。

 園香と真美それぞれに、できてなかったところや注意する点を細かくアドバイスしてくれた。技術的な注意点、表現の方法などをやさしく丁寧に教えてくれる。

 二人とも、すみれが気に掛けて見てくれていたことと、一人ずつ課題や日々のレッスンで注意することをアドバイスしてもらえたことが嬉しかった。


 しかし、それと同時に、これは見学していた唯のお母さんも驚きながら隣で聞いていたのだが、誰もが、先程のレッスン中、すみれは唯に付きっきりで、まったく他のダンサーたちを見てなかったように思っていた。

 にもかかわらず、園香と真美の本当に細かいところまで、できてなかったところを見逃してないというのに驚くばかりだった。

 大まかに『この踊りではここを注意する』などという一般的なアドバイスではなく、今さっきのレッスンで、二人ができてなかったところを、それぞれに、すべて注意し、アドバイスしてくれる。


◇◇◇◇◇◇


 その後、古都と恵人の『白鳥の湖』のグランアダージオを通した。

 唯も古都と恵人は覚えており目を輝かせて見ていた。唯のお母さんも美しい二人の踊りに感無量という感じで見入っていた。


――――――

〇アンシェヌマン

バレエの基本動作を組み合わせ踊りの様にしたもの。バレエではステップや基本動作を『パ』という。二つ以上の『パ』を組み合わせてバレエの踊りにしたものをアンシェヌマンという。普段のレッスンではセンターレッスンの終わりの方で曲に合わせて行う。


〇パ

バレエではステップや基本動作を『パ』という。


〇シャンジュマン

小さなジャンプの一つ。足のポジション五番でドゥミプリエから、まっすぐ上に跳び空中で足を入れ替え着地するジャンプ。

右足前の五番から始めるとき、空中で足を入れ替え、左足前の五番に着地する。

空中では膝、つま先をまっすぐ伸ばす。

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