第106話 青山青葉バレエ団 選ばれた者たちの場所
稽古場に入ると既にたくさんのダンサーたちがストレッチを始めていた。
皆の目線が集まった。一瞬、
憧れていた
唯と唯のお母さんも挨拶をする。
団員は皆、笑顔で挨拶を返してくれた。写真でしか見たことがなかったバレリーナたちが自分たちに挨拶を返してくれた。
この稽古場に当たり前のように入って行く美織と瑞希を見てすごいと思った。
しかし、よく思い出してみると、この二人が花村バレエに来る前、唯のお母さんが彼女たちに持っていた印象は、どうだったか……
今ここの稽古場にいる、すべてのバレリーナより、彼女たちの方がスターという印象だった。
バレエ雑誌で表紙を飾ったり、一ページ目に出てくるのは、
娘の唯が美織に
美織たちが稽古場の更衣室に向かおうとすると、唯が、
「私もお
と言った。慌ててお母さんが、
「唯ちゃん、今日は見学なの。みんなのお稽古を見せてもらうのよ」
という、
「お稽古着で見るの」
と言う。美織が微笑んで、
「いいよ、じゃあ、更衣室に行こうか」
と言ってお母さんに微笑む。
唯が持っていくと言うので稽古のものは一応全部持って来ていた。
美織が唯を着替えさせ、頭もバレエのシニヨンにしてくれた。微笑む唯。
更衣室から出て来た唯を見て、稽古場にいたダンサーたちからも笑みがこぼれる。
稽古場の鏡の前に椅子がいくつか並べられていた。唯と唯のお母さんが座って待っている間もいろいろなダンサーが入ってくる。
そんな中でも、さすがにルエルたちが入って来た時には、目を丸くして驚いていた。
そこへ一人のダンサーがやって来て、皆にスケジュールの変更を伝えた。
「皆さん今日は
それを聞いて瑞希が唯と唯のお母さんに向く。
「どうしましょう。午前中に終わると思ってたんですけど」
唯のお母さんは、
「大丈夫です。リハーサル見させて頂きたいです。午後も特に予定ないんで」
唯も笑顔で、
「お稽古全部見ていく」
と言って、美織に抱きつく。
美織が微笑んで唯を抱っこする。
「大丈夫?」
と聞くと、唯は笑顔で大きく頷く。
お母さんが横にいた瑞希に小さな声で聞く。
「ここの稽古場は、何か特別なところなんですか?」
瑞希も声を
「ここはバレエ団のプリンシパル。ここのトップバレリーナの稽古場です」
と言う。
そこへ一人の女性が入って来た。
黒のTシャツ黒のジーンズ。黒のキャップ帽にサングラス。黒いバッグを肩に掛けて入って来た。
唯のお母さんが息を飲んだ。
瑞希が今日の予定の変更をすみれに伝える。すみれはサングラスを外し頷く。
唯の方に目を向けて微笑む。しゃがむようにして、
「お稽古着、着てる」
かわいらしく頷く唯に、
「あなたが唯ちゃん?」
「はい」
すみれは微笑んで頷き、
「あとでキャンディ見てあげる」
そう言って唯の頭を撫でて更衣室の方に歩いて行った。
唯のお母さんが、彼女に見惚れるような目線で小声で瑞希に聞く。
「久宝すみれさんですか?」
「え、ご存じですか?」
「憧れのダンサーなんです。一度、テレビで見たことあるんです。踊っているところ」
「すごいですよね。すみれさん。私にとっても憧れの方なんです」
という瑞希に、唯のお母さんが、
「そういえば、似てますよね。瑞希さん、すみれさんに」
「え! 本当ですか?」
と喜ぶ瑞希。隣から美織が、
「あなたの服装でしょ」
と言って微笑む。
「なにを見られたんですか? すみれさんの踊り」
「『金平糖の精』です。あんな素晴らしい踊り見たことがない……い、いえ、美織さんや園香さんの踊りもすごいです……」
と慌てるお母さんに、
「いいんですよ。私もすみれさんの踊りに憧れてバレエを続けてきたんですから、私にとって、すみれさんはバレエの恩人でもあるんです」
美織が微笑む。
「え、美織さんにとって恩人……」
その時、稽古場の扉が開いて、二人の女性が入って来た。
稽古場のダンサー全員が声をそろえて二人に挨拶する。
「おはようございます」
花村真理子と花村あやめ
唯と唯のお母さんが驚いて椅子から立ち上がった。
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