第100話 青山青葉バレエ団 レッスン(二)

 ピアノの桐原きりはらという女性がゆっくりした曲を弾き始め各自ストレッチを始めた。


 ルエルとディディエ、ラクロワたち外国のプリンシパルたちもやって来た。ここでもう一度、真美がコケるような仕草で驚く。

 ロレンスが真美を見て。

「オー!」と真美の真似をして微笑む。稽古場に笑いが広がる。


「な、なに? あの人たち、なんでここに来てんの? 来るんやったら言うといて」

「バレエフェスティバルで日本に来てて、ここで調整しているらしいの」

 園香そのかの言葉に驚く真美。

「ここ、一体、なんなん?」


◇◇◇◇◇◇


 稽古場のセンターに二列にバーが用意される。男性のダンサーたちが手際よく準備する。

 二列に並べられたバー。

 その先頭には美織みおりそして瑞希みずきが並ぶ。その後ろにはバレエ雑誌で青山青葉あおやまあおばバレエ団の写真が出るとき必ず見るようなダンサーたちが並んでいる。

 このバーに並ぶ序列を見ると、やはり、この名門バレエ団の中で、美織みおり瑞希みずきはトップのプリンシパルだったのだと実感する。そうでなければ、バーレッスンで、あの位置につくことなど到底できない。

 団員たちの後ろに園香と真美も入れてもらった。

 更に、その後ろに古都こととすみれが付く。

 そして、男性のプリンシパルが壁のバーに並ぶ。男性もプリンシパル級のダンサーが優一、恵人けいとげんとおるのほかに四人ほどいる。

 そして、ルエルとディディエ、ラクロワ、ロレンスといったバレエフェスティバルに出演する外国のプリンシパルたちも男性の団員の後ろについた。


 稽古場の鏡の前には青葉あおばと同じくらいの年齢の女性バレエ教師が立つ。

 バーからセンターまで、いつもの流れという感じでレッスンが流れる。普通のバレエ教室の様に先生が生徒に注意しながらという感じではなく、各自が調整しながら自分のペースでバーもセンターも確認しているような感じだ。

 園香も真美も今まで経験してきたレッスンとは全く異なる雰囲気を肌で感じた。

 いわゆる、先生に注意されながら受ける『お稽古』という感じのレッスンとは全く異なるものだ。自分でその日の調子や感覚を確認しながらの調整するという、プロのレッスンを体験した。それぞれのダンサーが自分のペースで練習している感じだ。


 バーからセンターまでバレエ教師は前で動いたり、踊って見せたりせず、順番を口で言うだけだ。これに園香も真美も慣れていない。

 バレエ教師が手先を動かしながら、口で「ソテ、ジュテ……グリッサード、アッサンブレ……」と言って、ピアノの桐原に「お願いします」と言うと、すぐに美織と瑞希を先頭に踊り始める。二人に続いて他のダンサーも順番に踊る。


 園香と真美も周りのダンサーを見て見様見まねでついていく。美織と瑞希は先頭で踊るのだが、園香と真美の順番になると一緒に踊ってくれた。園香たちも必死でついていく。

 外国のダンサーたちはここに来たばかりなのに軽くこなしている。

 最後に古都こと恵人けいとが踊る。

 すみれは踊ったり踊らなかったり、自分で調整している感じだが、踊ると、このプリンシパルたちばかりの中でも、すみれは別格というほど完璧に美しく踊る。

 外国のプリンシパルたちもため息をつくように見つめる。


 今日初めて参加する園香と真美の二人に対して、美織や瑞希ばかりでなく、古都ことやルエルも、気が付いたところは、やさしくアドバイスしてくれた。

 世界的なプリンシパルたちからのアドバイスに園香も真美も緊張の連続だったが、それは本当に貴重な経験になった。


 一通りセンターまで終えた後、バレエフェスティバルの調整といって、美織と優一、ルエルとディディエは別の稽古場に行った。

 古都こととラクロワ、すみれとロレンスはこの稽古場で調整する。

 そして、他の団員は『白鳥の湖』第二幕の練習で一階の一番大きい稽古場に行った。

 瑞希は他のバレエ教師からコールド(群舞)を見て欲しいと言われ一階に行った。


 園香と真美は、青葉あおばと真理子に呼ばれ、古都ことやすみれの練習を見させてもらえることになった。


 古都こととロレンスの二人は

『ロミオとジュリエット』のパ・ド・ドゥ

『白鳥の湖』のグラン・パ・ド・ドゥ


 すみれとラクロワの二人は

『マノン』のパ・ド・ドゥ

『グラン・パ・クラシック』のパ・ド・ドゥ

『眠れる森の美女』のグラン・パ・ド・ドゥ

を通した。


 これを見学できたことは二人にとって貴重な体験だった。


 古都こととすみれの圧倒的な表現力に魅せられた。

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