第96話 青山青葉バレエ団 神々の集まる場所

 美織みおりと優一は瑞希みずきのところで何か話している。古都ことは相変わらず、すみれという女性と話し込んでいる。


 恵人けいとがやって来た。

「時間があったら、もう少し見ていってよ」

「はい」

 園香そのかの言葉に微笑む恵人。


 そこへ美織がやって来た。

「園香ちゃん、こんにちは」

「美織さん」

「すごいでしょ。ここ」

「驚いて声が出ません。美織さんや瑞希さんは慣れてるみたいですね」

「まあ、この前までここで踊ってたからね」


 ここ……そうだ。美織はまぎれもなく、このバレエ団のプリマで、ついこの前まで、まさにこの稽古場で踊っていたのだ。

 改めてすごいバレリーナと巡り会えていたことを痛感した。

「せっかくレオタード持って来たんだったら着替えて、瑞希と一緒にその辺でストレッチでもしながら見てるといいよ」


◇◇◇◇◇◇


 瑞希に促されて更衣室へ案内された。着替えるだけ着替えて二人でストレッチをしながら見学させてもらうことにした。

 話を聞いていると、今日の午前中、美織や優一、ルエルやディディエ、ロレンスはバレエフェスティバルのリハーサルを一通り終わらせたのだという。

 明日もリハーサルをするので午前中から来るといいと美織に言われた。午前中、朝一番はバレエ団の団員もバーレッスンからセンターまで一通りするので一緒にしたらいいと言われ、瑞希と一緒に明日の朝のレッスンに参加させてもらうことにした。

 そして、美織から、今日もせっかく来たのだからバーレッスンくらいまでしとくといいよと言われ瑞希と一緒にバーまでやっていくことにした。


 その後、稽古場では恵人のジークフリートのヴァリエーション。古都のオデットのヴァリエーション、オディールのヴァリエーションが踊られる。

 園香と瑞希は稽古場の隅でストレッチをしながら見ていた。恵人の踊りは正確でポジションも完璧に見えた。まさにノーブルの踊りだ。非の打ちどころがないように見えた恵人の踊り。

 踊り終わると優一、げんとおるから指摘がある。ディディエとラクロワがそれぞれ恵人の踊った男性ヴァリエーションを踊って見せる。そして彼らからもアドバイスをもらう。なんという贅沢なリハーサルだろう。


 その後、古都ことのヴァリエーションも、すみれやルエルが細かくアドバイスをしていた。

 古都ことは少し前までロイヤルバレエでプリンシパルとして活躍していたダンサーだ。まさに世界のプリマの一人である彼女と、すみれという女性が、このバレエ団の中で、どういう関係なのか、よくわからなかったが、そばで聞いていてもかなり細かく的確なアドバイスをしているのがわかった。


 黒のレオタードに黒の巻きスカート。華奢で線が細いが身長は園香と変わらないと思った。どこか冷たい表情と雰囲気を感じさせる女性だが、瑞希はバレエ団の中で美織と並んで憧れの先輩だという。

 園香の中に花村バレエでも何度か聞いた『鬼のように厳しい人』という噂も記憶に残っている。

 ここの稽古場で初めて見たとき気が付いた、瑞希の独特のファッションスタイルは、このすみれという女性に影響されているのがわかった。


◇◇◇◇◇◇


 すみれがスッと稽古場の中央に出る。

 その瞬間、その場に居合わせたプリンシパル級のダンサー、バレエ団員、バレエミストレスたち全員の注目が一瞬に集まった。

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