第95話 青山青葉バレエ団 聖域

 稽古場に漂う異常な緊張感。ここはこの建物に入って今までの活気とか華やかさのようなものから一線を画した。

 なにか厳格なものが結界を張っているような雰囲気さえある。張り詰めた緊張感の中で、古都こと恵人けいとの完璧と思われるグラン・アダージオを踊り終える。


 周りで壁にもたれるようにして見ていた世界のプリンシパルたちが頷きながら拍手を送る。園香そのかも気が付くと拍手を送っていた。

 稽古場の正面で椅子に座って見ていた真理子が二人の踊りを思い返すようにスッと立ち上がる。

 サッと二人が真理子の前に行きお辞儀をする。

 真理子がやさしい表情で古都ことに表現の仕方についてアドバイスをする。なにか舞台の向きを指差すように動きの流れと視線の向きについて伝えているようだ。

 すぐに恵人と古都がリフトをさらい直す。二人がリフトに入る前とリフトから下ろされる向きなどを確認し、その部分の振りを確認する。

 真理子が頷きながら古都の一言二言何かを伝える。それを聞きながらルエルやディディエも、その表現を確認して頷いていた。ディディエとロレンスもリフトの持ち上げ方などを確認していたようだ。

 ディディエとロレンスが、すぐに恵人と優一、元のところに行き何かを確認しながら微笑むように話す。ディディエが恵人にリフトの上げ方について何かアドバイスしていた。なんという環境なんだろう。園香は驚くばかりだ。

 古都とルエルが話しているところに、すみれと美織、あやめがやってくる。瑞希みずきに促されて園香も古都のところに行く。

 細かい表現について話していた。ルエルが古都に何か微笑みながら話しかける。すみれも古都に何か真剣な表情で話しかけていた。

 そして、もう一度、真理子からアドバイスをもらったところを古都と恵人が曲で踊り、二人の練習を終えた。


 少し休憩を取った後、恵人のジークフリートのヴァリエーションと古都のオデットのヴァリエーションとオディールのヴァリエーションを踊るという。


◇◇◇◇◇◇


 休憩に入り恵人が園香のところにやって来た。

「園香ちゃん、久し振り。見に来てくれたの」

「はい」

「どうだった?」

「どうって、凄すぎて言葉がありません」

「そう。凄いでしょ。この人たち」

大きく頷く園香。

「驚きました。なんなんですか? ルエルさんとかディディエさん」

「バレエフェスティバルで来日しているんだ。リハーサルでここを使っているんだよ。だから、最近、毎日来てる」

「へえ」

 もう一度、改めて周りを見回す。本当に驚く光景だ。


「あ、そうだ。ちょっと真理子先生に挨拶してきていいですか?」

「どうぞ、どうぞ」

 微笑む恵人。園香が真理子のところに駆け寄っていく。


「先生。おはようございます」

 その声に、瞬間、稽古場にいた青山青葉あおやまあおばバレエ団の団員、バレエミストレスたちの視線が一斉に園香の方に集まったのがわかりビクッとした。


「こんにちは、佐倉さくらさん」

「あら、園香ちゃん、久し振り。よく来てくれたわね」

 隣から青葉あおばも声を掛けてくれた。その言葉で全員の厳しい視線が解けたような気がした。


「今日はここでお稽古させてもらうの?」

 真理子が園香に聞く。

「瑞希さんに連れて来て頂いたんです」

 園香の言葉に、青葉あおばがやさしく言う。

「お稽古のものを持って来てるんだったらレッスンしていったらいいわ」

「ありがとうございます」

「ここの稽古場でお稽古したら、すごい人たちからいっぱい教えてもらえるわよ」

 もう一度、周りを見回す園香。

「え、い、いえいえ」


 ルエルと目が合った。

 ドキッとする園香。

 ルエルが園香の方に微笑みながらプリエをするような仕草をする。

 園香は気絶してしまいそうだと思った。

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