第93話 青山青葉バレエ団 二階ソリストたち

 久し振りに会ったバレエ団の友人や後輩、先生たちと話をした後、二階に向かう。

 二階に上がる階段の隣に別の稽古場が見えた。その向こうにも部屋が続いているようだ。

「この向こうにも稽古場が二つあって、その向こうは大道具を作ってる舞台美術さんの部屋があるの。二階にも同じように稽古場が二つあって衣装さんの衣裳部屋と小道具とか作ってる舞台美術の部屋があるのね。三階にも稽古場が一つと応接室。それと衣装さんと美術さんのスタッフの部屋があるの。四階は青葉あおば先生とかとおるさんとか、まあ、ここのバレエ団の先生方の部屋がある感じ」

「四階建て……何ですか。ここ」

「そうだね。大きいでしょ」

 驚いて頷く園香そのか。窓から見える向かいの美しい建物を指差して、

「あっちにある白い建物。あれもバレエ団の建物だよ。あっちは稽古場だけが何室もある感じなの。こっちが本館ね」

「ええ! ここ。青山青葉あおやまあおばバレエ団って、な、なんなんですか!」

「びっくりするでしょ」

「……」

 呆然と頷く園香そのか


◇◇◇◇◇◇


「よ! お久し振り」

 後ろから園香の肩をポンと叩いて通り過ぎて行く男性。振り返ると、新高輪フィルハーモニーの指揮者・恵那一矢えなかずやだった。

「あ! 恵那さん、お久し振りです」

 恵那は園香に微笑み頷きながら二階の広い稽古場に入っていく。一緒に稽古場に入っていく女性二人。オーケストラの人だろうか?

「あの人、前の人が久木田華くきたはなさんといってコンサートミストレス、バイオリンの方よ。後ろの人が有澤美空ありさわみそらさん、フルートの方。この前、花村バレエに来てた青柳彩弥あおやぎさやさんって方と三人はオーケストラの中でもすごい人みたい」

 瑞希みずきが園香に説明してくれる。

「へえ、オーケストラの人たちもいらっしゃるんですね」

「うん、いつもここにいるわけじゃないけど、今は、舞台の直前だから、いろんな人が来てるんだよ。ちょっと二階見ていこうよ」


◇◇◇◇◇◇


 恵那が入って行った部屋を覗くと、先程、下の稽古場に下りてきていた寿恵としえがパ・ド・トロワの衣装を確認していた。

 腕を上げたり下げたり、衣装の胴回りの何かを調整しているようだ。寿恵の前で首にメジャーをかけた衣装の由香が何かを確認している。

 パ・ド・トロワの踊りを指導していた二人の女性が瑞希に気付いて、手を振って近づいてきた。

「瑞希! 久し振り」「おお! 瑞希。久し振り」

「久し振り。彩、カアヤ。元気だった」

「うん、元気、元気」

「瑞希も頑張ってるみたいね。あ、そちらは園香さん?」

「あ、はい」

 園香は名前を知ってもらっていることに驚いた。

 背格好の似た女性二人。一人はスッとした感じではっきりした顔立ちの女性。もう一人はふわっとしたやさしい感じで口元の小さなほくろが印象的な女性だ。

 この二人が以前、瑞希が言っていたダブル彩さんか……顔立ちがはっきりした方が彩さんで、ふわっとした方がカアヤさんか……そんなことを思い出した。


 そんなやりとりをしていると、衣装の由香が園香たちに気付いて微笑み、園香の肩を叩いて、

「お久し振り、また、あとでね」

と言って、忙しそうに稽古場を出て行った。


 その後、瑞希は二人の彩と少しを話して「また後で」などと挨拶を交わして稽古場を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る