第92話 青山青葉バレエ団 すみれ
生徒の何人かが入り口に立っている
「おはようございます」「おはようございます」
全員の視線がこちらに向けられる。
「瑞希さん!」「瑞希さんだ」「瑞希さんよ」
生徒たちの何人かがこっちに走ってくる。前で指導していた先生たちも瑞希と園香の方にやって来た。
気が付くと、あっという間に数十人の先生や生徒に囲まれた。
「お久し振りです」「お元気でしたか?」「みんな瑞希さんに会いたいって言ってたんですよ」
瑞希がサングラスを
「こんにちは、久し振り」
先生たちも嬉しそうな表情で瑞希に声を掛けてくる。
「元気だった?」「練習見てってね」
園香は改めて瑞希の偉大さに驚いた。瑞希がいかにこのバレエ団で愛され、慕われているかがわかった。
そこへ貴族の衣装を着た女性がやって来た。
「おはようございます。園香さん、お久し振りです」
「え、あ、
衣装を着た
「トロワ踊るんです」
「あ、言ってたね。すごい。頑張ってるね」
園香も微笑んで応える。寿恵が快く声を掛けてくれたことで、なにか自分もこのすごいバレエ団に少し受け入れてもらえたような思いがした。
「今、ちょうど上で練習してるところなんですよ。ちょっと用があって下りてきたんですけど」
「上?」
「はい、今、二階の稽古場で
「へえ」
ここの稽古場以外のところでも同じ公演の別の場面の練習をしているというのに驚いた。
「ねえ、寿恵。
瑞希が割って入って来た。
「三階で
「あ、三階にいるの?」
「あ、そうそう、
「三階?」
園香は二人の会話を聞き、この広い稽古場以外に二階と三階。ここのバレエ団は一体いくつの稽古場で公演の練習しているのだろうとさらに驚く。
話をしていると、後ろに一人の女性が現れたことに気が付いた。
◇◇◇◇◇◇
黒のTシャツに黒のジーンズ、頭には黒地に鮮やかな青で美しい模様が描かれたスカーフを巻いている。
誰?
園香がそう思った瞬間。
その広い稽古場にいた全員が整列して、一斉に頭を下げ声をそろえて挨拶する。
「おはようございます」
女性は全員に軽く会釈するように挨拶したかと思うと、こちらに視線を向け。瑞希のサングラスを指差すような仕草をして、
「いいじゃん」
と言う。
瑞希も慌てて頭を下げる。
「おはようございます」
女性は少し微笑み、その場を去って行く。歩きかけて、ふと立ち止まり、もう一度振り返り、
「三階」
一言そう言って歩いて行った。
誰かわからず戸惑っている園香に瑞希が微笑みながら言う。
「すみれさんよ」
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