第9章 東京 青山青葉バレエ団

第89話 青山青葉バレエ団 東京・瑞希の家

 一足先に美織みおりたち三人が東京に向かった。花村真理子バレエ研究所は三週間ほど休みになった。生徒の多くもバレエフェスティバルを見に行く。何人かは園香そのかと同じように青山青葉あおやまあおばバレエ団の公演を見に行くという。真美は同じ日、別の便で東京に向かうと言っていた。


 園香は東京には何度か来たことがあり、瑞希みずきから聞いた電車の乗り継ぎはだいたいイメージできた。

 とりあえず、到着して、すぐに瑞希に連絡した。瑞希に言われた電車で下北沢駅まで行く。駅に着いて周辺を見回し、こんなところに実家があるのかと少し驚いた。

 そういえば瑞希たち三人がどういう家で育った人たちかということを聞いたことがなかった。瑞希と優一が都内に住んでいたということ。美織みおりが千葉の出身という大まかなことは何かの会話で聞いた記憶があった。


 下北沢駅に着くと瑞希がいつものような恰好で迎えに来てくれていた。カジュアルな格好で、その辺から歩いて来たような感じだ。駅周りの賑やかな場所を通り過ぎる。他愛もない話をしながら少し歩いていく。

 先程までの雑踏とは異なり、静かな街並みに大きな家が続く。その風景を見ながら「うちいっぱい泊まるとこあるから」と瑞希が言っていた言葉を思い出す。

 豪邸なのだろうか? あまり気にしてなかったが……というより、彼女の性格や、さばさばした喋り方から、そんな感じを受けなかったが、とんでもないお嬢様なのだろうか……だとしたら、恵人けいとはとんでもないお坊ちゃまなのだろうか……今さらのようにそんなことが頭をよぎる。

 考えてみれば東京で姉弟二人にバレエを習わせ二人とも名門バレエ団のプリンシパルに育てる家庭だ。

 小さい頃から大人になるまで、子ども二人にバレエを習わせる家庭。それなりの家庭で両親がバレエに対して理解のある家でなければ、そこまでは続かないだろうと思えた。そういえば、ほかに兄弟がいるのかどうかも聞いてなかった。

 どちらにしても、瑞希も恵人もまったく付き合いずらさのような、いやな感じや自分と異質なものを感じたことはない。


 駅からそう遠くない通りの向こうから心地よいピアノの音が聞こえてくる。なんて閑静で優雅なところなんだろう。街並みを見ながら、そんなことを考えて歩いていた。


「ここだよ」

 瑞希が美しく大きな門を入っていく。入り口に美しく描かれた文字に呆然とする園香。


河合恵子かわいけいこバレエスタジオ


え? 実家がバレエ教室なの?

 門を入るとレッスンを受けている子供たちの姿が見える。


「瑞希さんちって、バレエ教室だったんですか?」

「そうだよ。言ってなかったっけ」

「き、聞いてないですよ」

「おどろいた?」

 頷く園香に、微笑みながら、

「いっぱい泊まるとこあるでしょ。稽古場で寝れるから」

「え……」

「うそうそ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る