第87話 バレエフェスティバル 美織の過去を知るもの

 ゆいが目を輝かせて美織みおりに抱きつく様にすり寄っていく。美織はキッズクラスの子たちの頭を撫でながらやさしく微笑む。


 園香そのかと真美も近くに行くと美織が気付いて声を掛ける。

「二人とも一緒に頑張ろうね。これが終わったらいっぱい教えてあげるから」

 そう言って二人に微笑む。園香と真美も顔を見合わせて微笑む。


 真理子が美織にやさしく声を掛ける。

「バレエフェスティバル頑張ってね。今日はみんなに素晴らしい踊りを見せてくれてありがとう」

「いえ、本番前にこんなリハーサルができてよかったです。私たちも緊張感を持って踊ることができました。ありがとうございます」

 美織が頭を下げる。

「本当にありがとうございます。今日まで十分な調整ができました」

 優一も礼を言う。


 真理子が首を振りながら静かに二人に言う。

「あなたたちがこんな素晴らしいバレエダンサーになるとは……素晴らしいわ」

 微笑む美織と優一。真理子が更に続けて美織にやさしく声を掛ける。

「今さら言うことでもないけど、美織さん、あなたはもう誰にも負けてないわよ。誰よりも上手よ」

 少し涙混じりに微笑む美織。真理子が手を差し伸べ美織と握手をする。

「私の差し伸べた手を取ってくれたわね」

 その時、美織の頬に一筋の涙が流れた。

「あのとき、手を後ろに回して、誰の手も借りないと、かたくなに周りを受け入れなかった少女。今でも覚えてる『わたしもみんなと一緒に踊れるもん』って泣いていた小さな女の子。よくあの練習についてきたわね」

 下を向き頷く美織。

「あの頃、先生にたくさんのことを教えて頂いたから……」

「いえ、すみれさんと優一さんでしょう。あなたをここまで育てたのは」

 何も言わずに頷く美織。


 真理子が静かに美織に言う。

「いつか、あなたのことお稽古場の生徒に話してもいいかしら?」

「もちろんいいです」

「そう、ありがとう。あなたの努力と今まで歩んできた道は、たぶん多くの人の心を支えると思うの」

「そんな」

「誰もが尊敬できる人よ。そして、夢を与えるバレリーナだと思うわ」


 それは誰もが知らない。京野美織きょうのみおりの過去の話。そして、そこに深くかかわっている花村真理子。

 園香や真美も美織に強く惹かれた。真理子が園香たちの方を振り返り、

「また、そのうちね」

そう言って微笑んだ。

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