第84話 バレエフェスティバル エスメラルダのタンバリン

 美織みおりと優一は『エスメラルダ』のグラン・パ・ド・ドゥも、今までの踊りと同じように三回通して踊った。見ている誰もが体力の凄さに驚く。グランを立て続けに三回踊って、まったく息が上がっていない。しかも、これまでに『海賊』と『ライモンダ』も三回ずつ踊っている。


 美織と優一が瑞希みずき園香そのかのところに来る。そこへ真美もやって来た。

「真美ちゃん、どうだった?」

 美織が微笑みながら聞く。

「どうって、素敵すぎます」

「ありがとう」

 美織が真美に視線を向ける。

「バレエフェスティバル終わったら落ち着くから一緒に踊ろうよ」

「はい」

 真美にとっても美織は雲の上のバレリーナだ。声を掛けられるだけでもあり得ないことだった。


 美織がティアラを外していると、キッズクラスのゆいが駆け寄ってきた。

「美織先生。タンバリン貸して」

「どうぞ」

 美織が渡すと唯がエスメラルダの踊りを真似するよう踊る。みんなが微笑む。集まって来たキッズクラスのほかの子たちが、みんな「わたしも」「わたしも」とタンバリンを手に取って真似して踊る。

「こら! 美織さんの大事なタンバリン。みんなタンバリン使いたかったら、うちの稽古場のタンバリンがあるから」

 北村が飛んできた。

「ええ、お稽古場のタンバリンおっきいの」

 唯が微笑みながら言う。

「あっちの方が音がでるでしょ」

 北村が少し怒ったような顔をして言う。

 唯が手に持った美織のタンバリンをじっと見ながら、

「こっちがいい」

という。周りで見ていたみんなから笑顔がこぼれる。


「でも、美織先生の大事なタンバリンよ」

 北村が困った顔をして言う。

「いいの、いいの、いいんです。タンバリン同じものを何個か持ってるから」

 美織の言葉に、

「ええ、いっぱい持ってるの? エスメラルダはタンバリン屋さんなの?」

と、唯が目を丸くして驚いたように言う。

「ええ?」

稽古場が温かい笑いの渦に包まれる。


 隣にいた瑞希が唯に微笑みかける様に聞く、

「唯ちゃんもエスメラルダになるの?」

「うん、私も『エスメラルダ』踊る」

 唯が美織に抱きつく様にして言う。美織が唯を抱っこしてやさしく言う。

「いいよ。いつか教えてあげる」

「本当!」

 きらきらした目で美織を見る唯が愛らしかった。


 瑞希が真美の方に向き直るようにして言う。

「美織さんたち、これバレエフェスティバルで踊るんだよ」

「すごいですね。私も見に行きます」

「ありがとう。今度のバレエフェスティバル、ここの先生や生徒さん、お母さんたちもたくさん見に来てくれるみたい」

 嬉しそうに応える美織。

 真美が観覧席の方に見回して呟く。

「みなさん、すごく熱心なんですね」

「わたしも行くよ」

 唯が見上げる様に真美に言う。

「すごい」

 真美が唯に微笑みながら言う。唯が嬉しそうににこにこ笑う。

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