第81話 バレエフェスティバル 束の間の休憩に ~ 真美
「少し休憩時間を取っていいですか?」
「どうぞ、どうぞ」
真理子とあやめが微笑んで言う。
「なんていうか、私たちもそうですが、見てくださってる皆さんもあんまり休憩なしで長くなると大変でしょう」
美織が微笑む。
グラン・パ・ド・ドゥはアダージオからコーダまで通すと一つの作品が十分から十五分くらいかかる。彼女たちは、それを各作品三回ずつ通している。
『海賊』を三回『ライモンダ』を三回通したところで一時間以上経っている。入れ替わって見ている生徒たちはともかくずっと見ている人は一時間以上座って見ている。それを察したのだ。
皆それぞれに休憩を取る。園香も少し下に下りていく。外で待っている生徒も何人もいる。他のバレエ教室の生徒の中に知っている生徒もいる。
「みんな大変じゃない」
「あ、
「実は今日のリハーサルは、うちのみんなも驚いて見てるの。すごいわよね」
ふと、一人の女性に目が留まった。
「あれ、真美ちゃん」
「ああ、園ちゃん」
大学の同級生の真美だ。このまえ大学でバレエを習いたいと言っていた。そして、一度バレエ教室を見学に行きたいとも言っていた。
「なんか、すごいね。ここのバレエ教室」真美が驚いた表情。
「見学に来たの?」
「うん、ちょっとね。今日はヒマだったし、園ちゃんとこの前いろいろ話したから、ちょっと覗いてみようかなって思って来てんけど……なんなん、これ、今日はなんかあんの?」
「そうなの……そうだ。見ていく?」
「いいの?」
園香が真美と一緒に稽古場に上がって行く。二人に気が付いたあやめが、誰? という表情で見る。
「大学の同級生でバレエを始めたいという友達なんです。見学に来たって言うんですけど……見学させてあげていいですか?」
あやめが微笑んで頷く。
「どうぞ、どうぞ、今日はちょっと普段の練習とは違うけど、今日ここに来てる人、みんな見学だから……今日は、よそのバレエ教室の人たちも来てるの……え、と、お名前は?」
「
「今日は、うちのスタジオに春から来てくれている方がリハーサルしてるの。すごい人がリハーサルしてるのよ。どこでも座って見てもらっていいから」
「あれ、エスメの……」
「え?」
次のリハーサルの衣装に着替えてやってきた美織と優一も振り返る。園香は瑞希の反応の意味がよくわからなかった。
美織たちに気が付いた真美が驚く。
「え!
瑞希が少し驚いた顔で近づいて来る。
「あなた、宮崎美香先生とこの鹿島真美さんじゃない」
頷く真美。
「河合……瑞希さん……はじめまして……」
「まあ、初めましてなのかな……真美さん、あなた、バレエやめてたの?」
小さく頷く真美。
「そうなの……すごかったのに……なんで?」
「すごいなんて、そんな……なんか自信
「そうなの……また、やろうよ」
瑞希がやさしく声を掛ける。
美織がやって来た。
緊張した表情で美織に頭を下げる真美。
「鹿島真美さん。お久し振り。あなたよく
頷く真美。
優一もやって来た。
「あれ、エスメの……」
「鹿島真美ちゃん。今、高知にいるんだって」瑞希が言葉を添える。
優一にも頭を下げる真美。
「あ、今日はいないけど、今度のここの公演で
優一が言う。
「え?」驚く真美。
「覚えてるでしょ。コンクールで『ジゼル』のアルブレヒト踊ってた
優一が微笑んで言う。頷く真美。
美織も真美を勇気づける様に声を掛ける。
「あなた自信
「いえ、美織さんに言われるなんて恐れ多いです」
「バレエ一緒に踊ろうよ」美織が微笑む。
「見学席で見てなよ。今から美織さんエスメ踊るから」
瑞希が微笑んで言う。
「え! 美織さんが『エスメ』ですか? タンバリンの?」
「真美ちゃんに見てって言うんだからそっちよ。真美ちゃんのレパートリーでしょ」
首を振る真美。
美織が真美に顔を近づけて言う。
「真美ちゃんに負けないように踊るから」
園香は驚いた。自分のまったく知らない真美の一面。大学の同級生でバレエ経験がある……その程度にしか思っていなかった。その真美は美織や瑞希から名前を知られている……
「園香ちゃん手伝ってくれるかな」
「は、はい」
園香は驚きのあまり状況が把握できない。
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