第76話 バレエフェスティバル ティアラの魔性
稽古場の隅の方でキャリーバッグを広げる。衣装は
今回の衣装はすべてクラシック・チュチュだ。つまり、衣装が
手際が良いというか瑞希が簡易なハンガーラックを組み立てた。近くで見ていた
チュチュを四着。優一の衣装を四着掛ける。
瑞希が園香を呼ぶ。
「ごめん。園香ちゃん手伝ってもらえるかな」
「はい」
「順番は『海賊』『ライモンダ』『エスメ』『くるみ』ね」
「はい」
「私本番も美織さんの衣装の背中縫うの。今日も縫うから……園香ちゃんティアラの手伝いお願い。美織さんティアラは自分で付けるけど、いろいろ手伝ってくれると嬉しいんだよね」
「はい」
「あ、そうそう、もちろん本番は園香ちゃん客席で見てね。チケット買ってるんでしょう」
「え、はい。瑞希さんは一緒に楽屋に付いて行くんですか?」
「うん。それも貴重な経験だしね」
「わたし付いとかなくていいですか?」
「いい、いい。本番は今日よりもっと時間いっぱいあるんだから」
「へえ」
「それに客席から見た方がいいに決まってるから」
稽古場では
瑞希が四つの箱を取り出して開ける。そこには美しいティアラが入っていた。
「綺麗」
思わず園香の口から言葉が漏れた。
「え?」
「いえ、それ、そんな綺麗なティアラ、初めて見たから……それ本物ですか?」
「え? 本物?」
「いえ、なんていうか……その手作りとかじゃなくて」
「え? 手作りだよ」
「あ、いえ、その専門の人が作ったものですか?」
「そうそう、綺麗でしょ。衣装班にすごい職人みたいな人がいて、その人が作ってくれるの。私も作ってるとこ見たことあるけど、すごいよ。職人、職人」
「へえ」
「これブルーと銀色のビーズが散りばめられてる、これが『海賊』ね。
ひときわ美しく上品で繊細に見えるティアラ。
「きれい」
「銀と金とクリスタル系の石が絶妙な感じで散りばめられて、全体的に薄い金色みたいなこれが『くるみ』の金平糖。園香ちゃんもこれ付けて踊るんだよ公演で」
思わず
「……園香ちゃん」
「……」
「園香ちゃん」
「え、あ、はい」
「ティアラに
微笑む瑞希。
「あ、はい」
「でもさあ、ティアラだけじゃなくて、衣装のチュチュも……そうそう、この前のリハで衣装の由香さんがトレパックの子たちの足形取ってたと思うけど、ブーツだって手作りよ」
「そうでした。すごいですね。その技術も」
「園香ちゃんのティアラも
「
「そう、ティアラ作りの名人。
瑞希は手際よく衣装や小物を確認する。
「これUピンで、こっちがアメピンね」
「はい」
「美織さんが取りやすいように持っといてくれるといいかな」
そんな話をしていると、バーレッスンまで終えた美織と優一がやって来た。
「美織さん。衣装更衣室で着てきてもらって、ここでティアラとか背中縫うのとかしてもいいですよね」
「うん、いいよ、いいよ。更衣室だといっぱいになっちゃうでしょ。ここなら踊りの邪魔にもならないし」
稽古場の方のギャラリーは、やはり一度で入り切らないほどの見学客が集まっていた。花村バレエのスタッフが事情を話して、見に来た生徒たちに三回に分かれて入ってもらうことにした。
美織と優一の二人が『海賊』の衣装を着て更衣室から出てきた。美織の衣装は薄い青に美しく繊細な金色の
園香が海賊のティアラを準備する。
ブルーと銀色のビーズが散りばめられてる。真ん中、額のところにティアドロップ型のブルーの石が美しい。
瑞希が手早く後ろから美織の衣装の背中の鍵ホックを留め背中を縫う。バレエのチュチュは背中が開く形になっている。
鍵ホックが数か所付いているが、踊る前に背中を縫う。男性と一緒に踊る際、高速で回転するターンのサポートで衣装に隙間があると男性の指がその隙間に入る危険性がある。
そして衣装の特徴として、女性の衣装は華やかな刺繍や飾りが付いているが、胴回りなど男性がサポートする箇所にはスパンコールや石などのような飾りは少ない。手が切れる危険、手が切れたとき衣装に血が付くリスクがある。
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