第75話 バレエフェスティバル 衣装付きリハーサル準備
翌日は一般のレッスン生は休み。午前十時から
朝八時頃、喫茶店エトワールにいた千春が店の前に出て、花村バレエの方に目を向けると既にバレエ関係の人と思われる小学生から高校生、バレエのレッスン生らしい大人の女性、男性が数人うろうろしている。
誰だろう? 花村バレエの生徒ではないように見えた。近くに行ってみると、市内の別のバレエスタジオ、山野美佐子バレエスタジオ、橋野亜紀バレエ研究所の生徒が数人、花村バレエの前にいる。千春が知っている子たちだ。
「あら、山野先生のところの恵梨香ちゃんと由美ちゃんじゃない。どうしたの?」
「あ、いえ、
「え、山野先生のとこにも話がいってるの?」
「たぶん、他のバレエスタジオにも……橋野先生のとこの理香ちゃんも……」
そう言って向こうに集まっている子たちの方を見る。
話をしているところに北村と秋山がやって来た。二人も驚いて、そんなに噂が広がっているのかと少し慌てた。
教室に入るとあやめが慌てている。
「あやめ先生。前に山野先生とこの生徒さんたちと橋野先生とこの生徒さんたちが……」
「そうなの。朝から他のバレエ教室の先生たちからも問い合わせがあって……とりあえず来る分はもう仕方がないけど、これ以上広めないでとは言ったんだけど……でも生徒同士で連絡取り合ってるみたいで、収拾がつかないのよ」
「ええ!」
「とりあえず市内のバレエの先生方には昨日の夜連絡して皆さん来られるみたい」
「それ、
「まあ、彼女たちは『いいですよ』って言うんだけど……で、先生方はいいんだけど、うちの生徒からよその生徒さんたちにも連絡がいったみたいで噂が広がって……稽古場のキャパもあるじゃない」
あやめの言葉に、北村も、
「そうですよ。なんか、たぶん
八時半に
「な、なにこれ?」
「え、これ、みんな入れるの?」
そこへ
白いワンピースに白いつばの広い帽子の美織。白のTシャツにジーンズ爽やかな出で立ちの久宝優一。黒のTシャツにジーンズ。オリエンタル調のスカーフをターバンの様に頭に巻きサングラスかけてやってくる瑞希。
集まっていたギャラリーから悲鳴にも近い歓声が上がった。
「キャー本物よ」
「京野美織さんキレイー」「久宝優一さんステキ―」「河合瑞希さんカッコイイ」
芸能人やスポーツ選手はいつでもフルネームで呼び捨てだ。バレエの場合、フルネームに『さん』付けになることが多い。
三人もこのギャラリーの数に少し驚いたようだ。聴衆を
「ごめんなさい。なんか大変なことになって」
「いえ、別にいいんですけど。どうしましょう。多いですね」
「……」
困った顔をする花村バレエのスタッフ。
美織があやめや北村たちに提案する。
「どうでしょう。私たち全部のグランを三回ずつ通そうと思ってるので、順番に見て頂いたら……花村バレエの生徒さんは全部見てもらっていいですよ。あと他のバレエ教室の先生方も……」
あやめや北村たちは顔を見合わせ、そんなに踊るのか……と驚きもあったが、それなら、なんとかなりそうだと思った。
微笑む美織。
稽古場の
「ここのスペース少し使っていいですか?」
瑞希が聞く。
「控え室使わないんですか?」
少し驚いた表情で北村が聞き返す。
「もしよかったらここで……」
「でも美織さんはいいんですか?」
「いいのいいの慣れてるから。もちろん着替えは更衣室使わせてもらうけど、ボディファン(ボディファンデーション)着てるし。背中縫ったりするのはここで。衣装がいっぱいあるから、全部更衣室でやってたら、更衣室がいっぱいになるから。あ、男子たち、じろじろ見ないで! 慣れてね。優一さんも更衣室で着替えてもらいますけど、背中はここで縫います」
――――――
ボディファンデーション
衣装やレオタードの下に着る薄手の肌色に近い色の下着。レオタードが透けたり衣装が汗で汚れるのを防ぐ。薄手のレオタードのようなものなど。
――――――
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