第70話 くるみ割り人形 第二幕(十四)第二幕仕上げ

 今日は朝からずっと練習が続いている。相変わらず、なんというスピードで振り付けるのだろうと思った。時間は四時になろうとしていた。

 とおる古都ことげんが集まる。げんが優一と美織みおり瑞希みずきを呼ぶ。何か真剣に話しているような感じだ。


「何を話しているんだろう」

園香そのかつぶやく。

「二幕の始まりのところ振り付けるんじゃない。あとそこだけだから」

恵人けいとが応える。

「ああ、一幕からのつながりでお菓子の国に来るところ?」

「そうそう」


 園香そのか恵人けいと美織みおりと優一に呼ばれた。やはり、第二幕の始まりの部分のことだ。ここは主要なメンバー数人で演じるという。

 雪の場を旅立ったクララ・園香そのかと王子・恵人けいとがお菓子の国にやって来る。お菓子の国のお城の入り口でお城の者から迎えられる二人。

 迎えるのは北村、秋山、古都こと美織みおり瑞希みずき、そしてもう一人青山青葉あおやまあおばバレエ団から来るゲストダンサーの六人。

 そこへ園香そのか恵人けいとがやって来る。するとやっつけたはずのねずみの王様・げんが現れる。まだ、息の根を止めていなかったのだ。そして、また王子に戦いをいどんでくるが、またもや追い払われ降参する。

 そして、いよいよ二人はお菓子の国の城に招かれる。

 舞台の中幕なかまくが上がり、お城の中。スペインの踊り、アラビアの踊り、中国の踊りなどディベルティスマンのダンサーたちが全員並んでいるという設定だ。


 スペインの踊りのダンサーが中央後ろに。そして、その左右にアラビアの踊りのダンサー、トレパックのダンサーが並ぶ。アラビアの踊りのダンサーの横にあし笛のダンサー、中国の踊りのダンサーがスペインの踊りのダンサーの前に座る。そして、さらに両端に花のワルツのワルツ組のダンサーが上手かみて下手しもてに八人ずつ並ぶ。


 この部分の段取りと演技をとおるが振り付ける。そして、振付が終わった後、徹がもう一度、全員を集め、この最後の部分から第二幕の流れをすべて説明した。


 徹が全員に流れが把握できたか確認する。キャンディの子供たちが元気よく手をあげて返事をする。

「本当にわかった?」

微笑みながら徹が問い返す。するとまた元気よく手をあげてキャンディの子たちが返事をする。

「はーい」「はーい」

稽古場にいるみんなが微笑む。


「大丈夫かな」

徹が大人の出演者の方にもう一度顔を向ける。みんなそれぞれに目配せするようにみんなの顔を見る。

「じゃあ、一度場当ばあたりしながら、流れをさらおうか。踊らなくていいから全員で動いてみよう」


 徹が二幕の初めから流れを言うので、稽古場を舞台と仮定して、順番に舞台に出てきて体で流れを覚えようという。


 二幕の初めの部分から、徹が順を追って場面を説明していく。皆その順番でその時、自分がどこにいるのかを確認していく。

 出演者全員、二幕の大きな流れが把握できた。


「じゃあ、二幕を曲で通します。ダブルキャストの人もいると思うので二回通します。いいですか?」

全員返事をする。

「じゃあ、五時から通します」


 少しの休憩のあとリハーサル。徹が由香に時間を計ってもらうようにお願いする。

「由香さん時間お願い。ただ今回は途中のルベランスなしでいくから……ディベルティスマンのところ」

「それ時間計る意味あるんですか? 二幕のディベルティスマンは一回一回ルベランスあるんでしょう。それ全部なしだと五分以上変わってきません?」

「うん、まあ、だいたいで……」

「だいたい過ぎません。まあ計りますけど……」

「お願い」


「あ、それより美織みおりさん『キャンディ』から『花ワル』の早替はやがえのとこ時間確認させてください。お願いします」


 その後、第二幕の通し練習は何とか二回無事に終わった。由香も美織みおりの衣装の早替はやがえ時間がだいたい予想通り二分三十秒程度だということを再確認したようだ。


 その日も全員練習が終わった後、由奈ゆな園香そのかの『冬の松林の場』の練習があった。それが終わったのは九時頃。由奈ゆなはそこで帰った。

 そのあと園香そのか恵人けいとのグラン・パ・ド・ドゥの練習が十時過ぎまで。それでも昨日より少し早く終わった。


 明日はまた九時集合で十時から全通しを二回するという。今までの公演練習では考えられないスケジュールと規模で舞台づくりが進んでいる。

 帰り際、恵人けいとが「明日も頑張ろうね」と言ってくれたので少し元気が出た気がした。


 そして、翌日は予定通り全通しを二回。まだ振り付けしたばかりなので、ダメ出しも大まかなところだけで細かいところは、次までに練習しておくようにということで今回の怒涛の振り移しが終わった。


 この日、夕方六時頃の飛行機でゲストの先生たちは帰ることになっていた。四時頃には練習が終わった。

 美織みおり、優一、瑞希みずきも、青葉あおばとあやめ、園香そのかも空港まで見送りに行った。

 美織や優一、瑞希が青葉やとおるげん古都ことと話をしている。

 恵人けいとが園香に、

「今度、七月は東京に来るんだよね。楽しみにしてるよ。うちの舞台も見に来てよ」

園香も微笑みながら、

「うん絶対行くよ」

「じゃあ、楽しみに待ってるよ」

そう言って一行いっこうは帰っていた。


 園香は恵人と何でもない会話が自然にできる様になったことが嬉しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る