第58話 くるみ割り人形 第二幕(三)スポンサー
「今日、練習に参加してない生徒さんはいますか?」
徹があやめに聞く。
「『あし笛』の
「『あし笛』の子が来てない……キッズの子は昨日は来てた子ですか?」
「はい」
北村の応えに、古都が美織の方に目を向ける。美織がフォローするように古都に応える。
「キッズの美鈴ちゃんは大丈夫です」
古都も頷きながら少し心配そうな表情で美織に言う。
「このあと振り付けるけど、美鈴ちゃんという子はフォローしてあげてね。明日は来るのかな」
北村が横から美織の顔を見ながらフォローする。
「明日は来ます」
美織が
「明日の通しまでに振り付けておきます」
頷く古都。
ストレッチをしている生徒たちを見ながら、徹と古都がチェックするように一人一人確認していく。
「『あし笛』の子はどんな子だろう? 美織、瑞希知ってる?」
美織と瑞希が首を傾げる様にして、あやめと北村、秋山の方に目を向ける。
「すみません。それが……美織さんや瑞希さんたちが来られるようになって、まだ一度もレッスンに来てないんです」
「え、怪我か何かですか?」
瑞希が聞く。
「いえ、佐和ちゃんっていう子、いろいろ他の習い事とか、バレエも県外の教室なんかにも習いに行ったりしているみたいで……たぶん、もう少ししたらレッスンに来るようになると思います」
あやめが北村、秋山と顔を見合わせる。
瑞希が少し驚いたように言う。
「他の教室にもバレエを習いに行ってるんですか?」
真理子がフォローするように言う。
「佐和さん、コンクールも目指してて、どうしても習いたい先生がいるって……」
「ええ? ここの教室からもたくさんコンクールの入賞者出てるでしょう。先生のところ東京でも有名ですよ」
古都の言葉に真理子が首を振りながら、
「そうなんですか……ありがとうございます。でも、なんというか……ちょっと、ご家庭の方針が……熱心なんだけど、独特というか……」
「そうですか」
古都が何か考えるような表情で徹の方を見る。
「まあ、どこのバレエ教室の発表会でも、いろいろなスタンスで臨まれる方はいらっしゃると思うので……」
という徹の言葉に、瑞希も少し考える様に呟く。
「家の方針はともかく中学二年生なんですよね。彼女は大変じゃないのかな? 今は別の習い事の発表会かなんかですか?」
「ピアノのコンクールみたいです」
秋山が言う。
「ピアノのコンクール! バレエのために他の先生にも習ってて、ピアノもコンクールですか? なんでも熱心なんですね」
なんでも本格的にする子なんだなと驚く瑞希。北村も秋山に合わせる様に、
「お母さんがなかなかすごい人だから……」
顔を見合わせる、徹、古都、美織たち。
古都が呟く様に言う。
「今回の公演も『あし笛』に出るんですよね」
真理子が何かを察した様に、
「今までの発表会でも配役なんかに不満を言われたりすることもあって。でも、先生方は振り付け、演出に専念してください。何かのときはすべてこちらで対処しますから……」
「え? そうですか……」
徹や古都も何か面倒なことがあるのか……と思ったが、そこはやり過ごした。
徹が古都、美織、瑞希に目配せした。
四人で生徒たちの様子を見るような
「彼ら、いろんな生徒さんや
「ええ、本当に、もしかしたら皆さんを怒らせてしまうんじゃないかと心配で……」
「ええ? そんなにすごい方なの?」
「まあ」
少し考えるような顔をする青葉。そこへ美織が戻って来た。
「すみません。もしよかったら、前回の『眠れる森の美女』のときのパンフレットがあったら見せて頂けませんか?」
「ええ、いいですよ」
そう言いながら真理子は、あやめにパンフレットを持って来るように言う。徹と古都、瑞希も戻って来た。美織が開いたパンフレットをみんなが覗き込む。
「あ、ゲスト、
「ほんと、
「美織さん、奈々ちゃん」
瑞希が言う。
「オーロラね」
ここの稽古場の入り口に写真が飾ってあった。
「あ、
「カラボス、
「本当だ」
みんなよく人を知っていると思った。このときのゲストは全員関西のバレエ関係者だ。関西で有名な
「ここ、フロリナ……松井佐和さん」
「
古都がページをめくる。生徒の写真と名前が出ているページを通り過ぎ、後ろの広告を見る。地元のテレビ局や新聞社の広告の隣に、パンフレット丸々一ページ
「ふーん、大きなスポンサーなのね」
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