第50話 くるみ割り人形 第一幕(十)雪の場

 美織みおり古都ことが小学五、六年生、中学生女子、高校生女子、大人クラスの女性を集め振付を始める。青葉あおば、真理子、あやめが前で見る。

 この振りには花村バレエの北村、秋山も入る。青山青葉あおやまあおばバレエ団のゲスト栗原寿恵くりはらとしえも入る。

 そして、何よりも青山青葉バレエ団のプリンシパルダンサー河合瑞希かわいみずき。この人がコール・ド・バレエ(群舞)に入れば魔法がかかったように全員の踊りがそろうとまで言われた。瑞希みずきが入る。


 美織みおりが指示を出す。

「まず、最初の音は瑞希みずき下前しもまえから入ってきて正面前しょうめんまえでグランジュテして回り込むように上奥かみおくへ走り抜ける……次、寿恵としえが反対の上前かみまえから出て正面前しょうめんまえでグランジュテで下前しもまえに抜ける……」

「はい」「はい」

瑞希みずきが最初の一片ひとひらの雪。そして、あ……って思ったところに降ってくる、もう一片ひとひらの雪が寿恵としえ……そして雪が降り始めた……って思うの。フルートの音……ね」


 チラッと恵那えなを見る。

「ん? あ、フルート、有澤美空ありさわみそらさん……神だから」

微笑む美織みおり


 次は高校生の二人が舞台の上前と下前から出てきて正面で交差するようにグランジュテ。回り込むように、かみしもおくに走り抜けていく。


 そして、上前かみまえ上奥かみおく下前しもまえ下奥しもおく四方しほうから四人が出てくる。ソテ・アラベスク、ソテ・アラベスク、グランジュテ。そして次の四人が同じように出てくる。さらに四人、四人。

 華やかになっていく曲に合わせ、八人、八人。最初のコーラスになる前に二十四人がそろう。

 コーラスに合わせ全員が舞台全体を大きな円を描く様に、ソテ・アラベスクで体を回転させながら踊る。ソテ・アラベスク、バランセを組み合わせ回りながら踊る。主要な音で瑞希と寿恵がセンターを割るように並ぶ。

 本番はこのコーラスのところから舞台に紙吹雪の雪が舞い始める。


 群舞の右半分の十二人と左半分の十二人が交差するように入れ替わる。踊りながら二十四人が互いに十二人と十二人の間をすり抜ける様にすれ違い前後左右の列が入れ替わる。それを数回繰り返し、瑞希と寿恵がセンターを割る立ち位置。元の列に戻る。

 さらに曲が激しくなり二十四人のダンサーたちが吹雪のように舞台に舞う。


 王子・恵人けいととクララ・園香そのかが、舞台の後ろから二十四人のコールドダンサーを割るように登場し二人が手を取り合い、舞台の正面前しょうめんまえまで走り出てくる。


 曲クライマックスになり、コーラスが歌い上げる。紙吹雪が舞台を染めるほど降ってくる中、二十四人の雪のコールドダンサーの間を王子・恵人とクララ・園香の二人がゆっくり舞台の中央奥ちゅうおうおくまで歩いて行く。


 王子とクララはお菓子の国に旅立っていく。


 幕が下りる……第一幕終了。


◇◇◇◇◇◇


 もう一度「雪の場」を通す。まだまだできていないところも多いが大きく曲を止めなければいけないところもなく踊り切った。

 とりあえず、今の段階でコメントはないと青葉あおば

「いいですよ。最初から通しましょう。由奈ゆなちゃん。園香そのかちゃん大丈夫?」

 少し不安な顔をする二人。


「大丈夫です」

恵人けいとが言う。


 恵人がのぞみしずかの方に目をやり、

「ハレルキン、コロンビーヌ、ムーア人はいけるかな?」

古都ことがぶっきらぼうに、

「大丈夫よ」

と言う。


 とおるが手をあげ、

「みんな自信はまだないと思うけどスタッフもフォローするからやってみようか。何か言うことある人は?」


 衣装の由香が手をあげた。

「え、と確認ですが、第一幕は曲が続いてる人はいないんですよね。客人でねずみとか、客人で兵隊人形とか」


 徹が言う。

「いない、いない。Aグループが客人のときはBグループがねずみと兵隊人形に分かれる。Bグループが客人のときはAグループがねずみと兵隊人形に分かれるから」


「フリッツ役の信也しんや君はねずみも兵隊人形もやらないんだよね」

「はい」

信也が応える。頷く由香。

「OK。やってみて気付いた人は、後で言ってね」


 徹が少し考える様にして由香の方に目を向ける。

「由香さん、一応全体の時間計っておいてもらえるかな。大体五十分くらい、一時間足らずだったと思うけど」

「わかりました」


 真理子、青葉あおば、由香、そして指揮者の恵那えな彩弥さやが鏡の前に並ぶ。由香がストップウォッチを手に持っている。


 見学者スペースを埋め尽くすほど来ているお母さんたちは緊張した面持おももちで見つめている。


「じゃあ、始めましょう」

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