第49話 くるみ割り人形 第一幕(九)ねずみの王様とくるみ割り人形

 美織みおり、優一、瑞希みずきの三人がやって来る。それから少し遅れて青山青葉あおやまあおばバレエ団のゲストダンサーとスタッフたちがやってくる。

 生徒たちがストレッチをしている間、彩弥さやがピアノを弾く。やさしく美しい曲。


 朝の九時バーレッスンが始まる。

 鏡の前にあやめが立ちバーレッスンを始める。曲は彩弥さやのピアノ。キッズの子たちも見様見真似みようみまねでバーにつかまって頑張っている。

 青山青葉バレエ団のゲスト。とおるげん古都ことも後ろについてあやめのバーレッスンを受ける。美織みおり瑞希みずき寿恵としえはレッスン生の一番前につき、優一、のぞみしずかは花村バレエの男子のレッスン生の後ろについてレッスンを受ける。


 十時『くるみ割り人形』の振付、演技指導が始まる。

今日はねずみの王様とねずみたち、くるみ割り人形と兵隊人形たちの戦いのシーン。


◇◇◇◇◇◇


 徹がここからの物語をみんなに説明した。


 クリスマスパーティーが終わり客人たちが帰ります。壊れたくるみ割り人形はドロッセルマイヤーが直してくれると言い、クララとフリッツも自分の部屋に帰ります。


 一旦は部屋に帰ったクララですが、くるみ割り人形のことが気になって眠れません。クララは夜中に一人で広間にやってきました。


 すると広間でねずみたちが走り回っています。

 怖がるクララ、その時、広間の時計が十二時の鐘をならします。様子を見ていると、くるみ割り人形がねずみたちを追い払うように目の前を通り過ぎました。

 追いかけようとするクララ……ねずみたちやくるみ割り人形を見失ってしまいます。


 周りを見回すクララ。しかし、何か様子が変です。

 気が付くとクリスマスツリーがどんどん大きくなっていきます。驚くクララ。何が起こっているか分かりません。


 ねずみたちが現れます。クララと同じ大きさのねずみたち。驚いて逃げるクララ。クリスマスツリーが大きくなったのではなく自分の体が小さくなっていたのです。


 そこへ、くるみ割り人形を先頭に兵隊人形たちが現れ、クララを助けてくれます。

しかし、ねずみの王様とねずみたちも負けてはいません。くるみ割り人形たちは苦戦します。


 クララがスリッパをねずみの王様に投げつけます。一瞬スリッパに気を取られたねずみの王様はくるみ割り人形に倒されてしまいます。

 ねずみたちは退散し、兵隊人形たちも帰って行きます。


 クララはくるみ割り人形と二人だけになります。


 クララに振り返るくるみ割り人形。あまりかわいらしくない顔をしていたくるみ割り人形は魔法が解け、美しい顔の気品ある王子に変わっていました。


 驚くクララに王子は深々とお辞儀をします。


 そして、ここからクララと王子の「冬の松林の場」の踊りに入ります。


 徹がそこまで説明した。


 この後、昨日、夜中まで練習した、あの踊りにつながっていくのだ。ここまで、たくさんの人数で演技をし、踊ってきた作品。

 ねずみたちとの戦いという場面の後、あまりかわいらしくない人形の姿だった王子は魔法が解け。美しく気品のある王子になる。


 そして舞台の上でたった二人で踊る「冬の松林の場」


 昨日、恵那が言った……


「主役のためだけに、出演者、スタッフ全員がこの舞台を創っていると感じる瞬間がある」


 そう言った意味が由奈ゆな園香そのかにも十分わかった。

 そして、あの美織みおりの厳しすぎるほどの練習の意味も理解できた。


◇◇◇◇◇◇


 青葉あおばとおる古都ことが演技指導し、この場面を仕上げていく。ねずみの王様はげん。くるみ割り人形は恵人けいと。ねずみたちと兵隊人形は、小学五、六年生、中学生女子、高校生女子、大人クラス以外の全員。ゲストの雪村希ゆきむらのぞみ月原静つきはらしずかもねずみ役で入る。


 ここに入らない小学五年生から大人クラスの女性は「冬の松林の場」の後、第一幕の最後を飾る「雪の場」に出演する。


 徹がねずみの演技指導、古都が兵隊人形の演技指導をする。小さい子供たちも楽しそうにねずみや兵隊人形の演技を覚える。

 手際よく教えていく青山青葉あおやまあおばバレエのスタッフ。このシーンはねずみの王様がげん、くるみ割り人形が恵人けいとと主要な役がプロのダンサーとなるうえ、ねずみのたちの中にのぞみしずかが入るため、花村バレエの生徒たちも、かなり速く演技の流れを覚えていけた。数回の演技指導のあと、曲で動きを確かめる。


このシーンでは由奈の演技も重要で、最初にくるみ割り人形が心配になって広間に戻ってくる演技。

クリスマスツリーが大きくなり驚く演技……ねずみたちと兵隊人形の戦いの中おろおろと広間の中を走り回る演技……そして、ねずみの王様にスリッパを投げつける場面。


これらをすべて美織が細かい表現まで由奈に教えていく。


そして、ねずみの王様とねずみたち、くるみ割り人形と兵隊人形たちの戦いの場面を曲で通す。

 青葉、徹も満足そうに微笑む。真理子と徹が話していたが、特に真理子の方から指示やダメ出しはなく少しの休憩を取った後、すぐに「雪の場」の振り付けに入った。

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