第45話 くるみ割り人形 第一幕(六)クリスマスプレゼント

 今日の練習もいよいよ終盤になる。キッズから小学生、中学生、高校生、大人まで全員が参加するドロッセルマイヤーが子供たちにクリスマスプレゼントを渡す場面の練習をする。

 ここから子供たちはAグループとBグループの二組に分かれる。それぞれが同じ演技をするが、一日目はAグループはドロッセルマイヤーからプレゼントをもらう子供たち。Bグループは更に二グループ「ねずみグループ」と「兵隊人形グループ」に分かれる。このあと明日から振付が始まる「ねずみ」と「兵隊人形」の戦い。

 二日目はBグループがプレゼントをもらい、Aグループが二手に分かれて戦う。

 今回の公演は二日間で一日二回の全四回の公演になる。今日は全員、ドロッセルマイヤーからプレゼントをもらう演技をつける。


◇◇◇◇◇◇


 あやめがお母さんたちの方に行く。

由奈ゆなちゃんのお母さん」

「はい」

 派手ではなく身なりのきちんとした上品な感じのお母さんだ。

「今から始まる練習のあと、少し遅くなりますけど由奈ちゃんに残ってもらっていいでしょうか」

「はい」


 青葉あおばとおるも丁寧にお辞儀をする。

「ご苦労様です。明日も早くなりますけど、よろしくお願いします」

そう言って練習に戻る。


◇◇◇◇◇◇


 子供たちがプレゼントをもらうシーン

 青葉あおばとおるが物語を説明しながら演技を付ける。

「ドロッセルマイヤーさんがたくさんのプレゼントの中から一つ一つ順番にみんなに渡すプレゼントを選んで渡していきます」

頷きながら聞く子供たち。

「みんなプレゼントを喜んで受け取るの。いい。その中でドロッセルマイヤーさんが特別なプレゼント『くるみ割り人形』を取り出します。あんまりかわいらしくない変わった人形です。女の子たち、女の子たちはその人形を嫌な目で見ます。男の子たちはその人形を見て笑います。いい、だれも受け取ろうとしないの」

「はい」

笑いながら返事をする子供たち。

「ドロッセルマイヤーさんが困った顔をします。そこへクララの由奈ゆなちゃんがそれを欲しいと言って近づいて行きます。ドロッセルマイヤーさんが人形をクララにプレゼントします。そこで、嬉しそうに人形を抱いてクララが踊ります」

 みんな上手にそれぞれ考えて演技をする。どうしたらいいかわからない子には美織みおり瑞希みずきが演技を付けていく。

 あっという間にそこそこ形になった。


「いいよ」

とおるがみんなを褒める。


「女の子たちは遠巻きに見て、男の子は人形をからかいます。はい、弟フリッツの信也君、クララの人形をからかって奪い取ろうとします。そう、乱暴に引っ張るの。そうすると腕が取れて壊れるようになってるから……今度、人形を持ってくるね」

周りで聞いていたスタッフやお母さんたちも楽しそうに見ている。


「泣いてしまうクララを見て、ドロッセルマイヤーはフリッツを叱ります。クララは泣き続けるね。ドロッセルマイヤーがやさしく人形を直してくれると言います……と、今日は、ここまで通しましょう」


 青山青葉あおやまあおばバレエ団のスタッフ、河合恵人かわいけいと、高校生の雪村希ゆきむらのぞみ月原静つきはらしずか栗原寿恵くりはらとしえも全員が総がかりで演技を付けていく。

 たくさんの演技、段取りがあるが、きめ細かな指導と手際の良さで、あっという間に演技が通った。

 今まで段取りを覚えるのが苦手だった生徒もわずかな時間で流れがつかめたようだ。


◇◇◇◇◇◇


 今日やったところをすべて曲で通す。まだまだ、できてないところは多いが粗方あらかた流れは全員が覚えた。


 青葉と徹が全員に向かって微笑み。

「今日はお疲れ様でした。みなさんよくここまで覚えてくれましたね。また明日一日お願いします。明日で一通り全部通したいと思います」

あやめが明日のスケジュールを伝える。

「明日は十時から始めます。明日は今日以上に長丁場になると思いますので。今日はゆっくり休んでくださいね」

時計を見たら、九時になろうとしていた。


「お疲れ様です」

「お疲れ様です」

皆が口々に挨拶をするスタッフの人たちにも挨拶をした。


「えーと、園香そのかちゃん、由奈ゆなちゃん、もう少しごめんね。すぐ始めるから」

 あやめが二人に言う。


 少し水分補給をする程度の休憩だった。


 オーケストラの恵那がしきりに連絡を取ろうとどこかに電話をかけている。


◇◇◇◇◇◇


美織みおりと優一、とおるげん古都ことの五人が振付演出をする。


第一幕 冬の松林の場

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