第44話 くるみ割り人形 第一幕(五)ハレルキン、コロンビーヌ、ムーア人(三)

 瑞希みずきいつきにハレルキンの踊りを丁寧に教える。

「ハレルキンはこんな踊りね。なんか、ずっと上、上って感じで、ジャンプしたり、体を引き上げるような動きの連続ね」

「頑張ります」

目を輝かせるように応える樹。


「うん、頑張ろうね。一つ一つのテクニックとしてはそれほど難しい技術はないの。これを見ている人に『すごい』って思わせるには一つ一つの動きを正確に、そして開脚するところなんかはできる限り百八十度に……って、そういうところで違いを見せていくのね」

そう言って振付をしていく。


「コロンビーヌの最後の方は二人で一緒におどるから、あとで玲子ちゃんと合わせるね」


◇◇◇◇◇◇


 美織みおりも丁寧に玲子に振りを説明しながら教える。真剣に一つ一つの振りを確認するように踊る玲子。

 コロンビーヌの玲子とハレルキンの樹が一緒に踊るところも一通りきちんと振りを通した。


◇◇◇◇◇◇


 古都ことひかるに振付をする。まだ、テクニックが追い付いてないところもあり不安そうな表情のひかる古都ことがポンと肩を叩きながら、

「大丈夫だよ。細かいテクニックは優一もいるし、美織みおり瑞希みずきもこの踊りできるから。これから教えてくれると思うからきちんと習っといてね」

「はい」

玲子、樹、光の三人と美織、瑞希が古都の周りに集まる。


◇◇◇◇◇◇


 古都が瑞希と美織の二人に言う。

「これから公演の日まで、この三人を徹底的にストレッチお願い。玲子ちゃんもね」

三人も真剣に聞いている。

「体の可動域かどういきが広がったら、まだまだ綺麗に、すごい踊りできるようになるから、バランスもとりやすくなるし、無理しない分、無駄に体力使わなくなるし、あとキープ力……バーとかセンターでつけといてね」

「はい」

三人は大きく頷きながら返事をする。

「それと園香そのかちゃんと由奈ゆなちゃんと……信也しんや君も」

園香と由奈、信也が古都のところに駆け寄って来た。


「三人も一緒にストレッチと日頃のバーとセンターしっかりやっといてね」

「はい」

「美織、瑞希、これから二幕の踊り、特にスペイン、アラビア、中国、トレパックとあし笛を踊る生徒についてもストレッチとアンディオールお願いね。キャンディは今の調子で……」

「はい、わかりました」

美織と瑞希が応える。


「いつ青山青葉あおやまあおばバレエ団に来ても、すぐ団員と踊れるくらいにしてあげて」

「はい」


――――――

〇ピルエット

 回転のテクニック。ピルエットにはアンディオール(外回り)とアンデダン(内回り)がある。

 アンディオールの場合、軸足を左足とし左手を後ろに振る方向へのターンが右回転になる。

 左足を前、右足を後ろにして、右足で蹴り上げる様に左足(つま先)で立つ。この際、右足はひざをくの字に曲げ右足つま先を軸足の左足ひざに付ける。右足は足の付け根からアンディオール(外側に開く)軸足の左足も足の付け根から外に開く意識を持ち。軸足はひざが曲がらないよう、足首は一番高いところまで引き上げるように気を付ける。

 アンデダン(内回り)はこの反対。そして、回転は左右両方ある。


――――――

〇リエゾン・ド・ピルエット(フェアテ)(ペアテ)

 一回転のピルエットを連続して回るテクニック。ピルエットを一回転するごとに五番ポジションのドゥミ・プリエに下りてピルエットを連続して繰り返す。バレエ『ドン・キホーテ』(第一幕)のキトリのヴァリエーションなどで踊られる。


――――――

〇フェッテ

 回転のテクニック。ピルエットから入ることが多い。右回転の場合、左足を軸足にして、右足をドゥバン(体の前)にひざを伸ばして出す。この時、軸足はドゥミ・プリエ(かかとを付けかかとが上がらないところまでひざを曲げる)そこから一気に右足を真横に振るのと同時に軸足はルルベ(ひざを伸ばし、足首も一番高いところまで立つ)で立つ。

 立った瞬間に右足は巻き込むようにパッセ(ひざをくの字、つま先を軸足のひざに付ける)にして回転し、正面に戻るとき軸足をドゥミ・プリエ右足をドゥバンという動きを繰り返し連続して回転する。

 特に作品の主役が見せ場で回るものはグラン・フェッテといい『白鳥の湖』の黒鳥や『ドンキホーテ』のキトリ『海賊』のメドーラなどは三十二回転回る。


――――――

〇アラセゴンドターン

 男性の回転テクニック。フェッテの要領で右回転(左足軸)のターンの場合、右足を振って一気に立ち上がるところまでは同じであるが立ち上がったあと、右足を巻き込まず、足は膝を伸ばして横九十度に上げたまま回転を続ける。


――――――

〇グランジュテ・アントゥールナン

 ジャンプのテクニック。右足前の場合、グランジュテは右足は体の正面に足の床をこすり上げる様にひざを曲げずに振り上げる。

 踏み切る足もひざを曲げず後ろに張る。

 グランジュテ・アントゥールナンはこれに回転が加わる。右足前のジャンプに場合、通常ジャンプする前に一回転目が入る。右手が進行方向になる向き立ち、右手を体の正面から横に広げる方向に回転する。体が進行方向まで回転した時前の足を進行方向に振り上げジャンプする。着地と同時に一回転し、体が進行方向に向いたときジャンプする。これを繰り返す。

 作品の最後に主役のプリンシパルダンサーが踊るグラン・パ・ド・ドゥで踊られることが多い。このときマネージュといって舞台で大きく円を描く様に回りながら、グランジュテ・アントゥールナンをする。

 一回一回のグランジュテ・アントゥールナンが完全に回り切れてなかったり、体の向きが狂ってくるとマネージュ(舞台を大きく円で回る)がコントロールできなくなる。

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