第42話 くるみ割り人形 第一幕(三)ハレルキン、コロンビーヌ、ムーア人(一)

 クララ役の由奈ゆなとフリッツ役の信也しんやを一通り振り付けた美織みおり瑞希みずき。そこへドロッセルマイヤー役の優一がげんと一緒にやって来た。

 ドロッセルマイヤー、クララ、フリッツの絡みを確認する。北村と秋山も優一と元が由奈ゆな信也しんやの演技指導をする様子を真剣に見ている。


◇◇◇◇◇◇


 美織みおり瑞希みずきがあやめのところにやって来た。あやめが二人に別の生徒の振付をしてほしいと言う。


「玲子ちゃん、いつき君、ひかる君。ちょっといいかな」

あやめが三人の中学生を呼んだ。


 あやめが青葉あおばとおる、衣装の由香や他のスタッフに紹介した。

「森岡玲子ちゃんです、コロンビーヌをやってもらいます。来島樹くるしまいつき君にハレルキンを踊ってもらいます。遠藤光えんどうひかる君にムーア人の踊りを踊ってもらいます。よろしくお願いします」

 三人は前以って配役を言われていたようで、本人たちは特に驚くでもなく、ゲストの先生方に改めてきちんと挨拶をした。


 少し緊張している玲子という女の子に美織が微笑んで話しかける。

「あなたが玲子ちゃんね。お稽古でみていたわ。あなたポールドブラきれいよ」


――――――

〇ポールドブラ

 腕を動かして表現すること。バレエ表現の腕の動き。

――――――


 いつも中学生組の中で先頭に立って頑張っている女の子。美織は彼女を覚えていた。緊張の中にも美織に覚えてもらっていたことが嬉しかった。


 あやめが玲子に言う。

「玲子ちゃん、美織先生に振りをお願いしてるからね」

「はい」

「よろしくね。私、先生なのかわからないけど」

 美織が微笑みながら言うと玲子も嬉しそうに、

「先生です」

と微笑んだ。


いつきひかる瑞希みずきさんに振り付けをお願いしてます」

「え! 優一さんじゃないの」

と言ういつき。その言葉と同時に後ろから瑞希に頭をはたかれた。

いたっ」

「優一さんはドロッセルマイヤーというドロ沼にハマってるの。優一さんより厳しい瑞希先生が特訓してあげるわよ」


「ハレルキンかムーア人、どっちか私が振り付け手伝おうか」

古都ことがやって来た。

 瑞希が驚いた表情で古都と男子二人を交互に見た。

「ありがとうございます。古都さん」

「瑞希、どっちにする?」

困った顔をする瑞希。


「じゃあ、私がムーア人の君の振付お手伝いしようか」

古都ことひかるの方に微笑みながら言う。


「じゃあ、私、ハレルキンでいいですか?」

瑞希が言う。


「いいよ。どっちが上手に振り付けられるか勝負ね」

古都ことが瑞希を挑発するような目で見る。


◇◇◇◇◇◇


 瑞希がいつきにハレルキンの踊りを振り付けることになった。

「樹君ハレルキンは知ってる?」

首を振る樹。

「そう、じゃあ先に一回私が踊るから、ちょっと見ててね」


「一つ一つのテクニックとしてはそれほど難しい技術はないの。これを見ている人に『すごい』って思わせるには一つ一つの動きを正確に、そして開脚するところはできる限り百八十度に……て、そういうところで違いを見せていくのね……コロンビーヌの最後の方で二人で一緒におどるから、後で玲子ちゃんと合わせるね」

聞きながら頷くいつき


そう言って、瑞希はクララ役の由奈ゆなを指導しているあやめのところに行った。


「あやめ先生、曲使っていいですか?」

と聞く瑞希にあやめが頷く。瑞希がデッキの方に行き、ハレルキンの曲の少し手前から流す。

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